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仮眠で過眠。

 聞き慣れない言葉に首を傾げるとフジタカが振り向いた。

 「えーっと……。元は修行して煩悩に打ち勝って、この世の真理を知って悟りを開いた人の事かな……。でも、俺の住んでた国では単に死者を仏様って呼んでたんだ」

 生きた果てに煩悩から解き放たれる。確かに、ある意味で人生は修行で、周りは煩悩だらけ。死ぬことによってその先へ昇華する……のかな。

 「それじゃまるで死ぬのが偉いみたいだよ」

 「そうだな。人に依るのかも」

 一度止めた手をフジタカが再び動かし始める。もうほとんど死体は残っていない。ライさんが戦闘で飛び散らせた肉片の消去に移っていたフジタカは苦い表情をしていた。

 「一生懸命生きた人を、生き残ってる俺達が仏って呼ぶんだ。その人を惜しんで」

 「生きてる人じゃないと、ホトケって呼べないもんね」

 フジタカは家の屋根の端にこびり付いた肉片も投げナイフで消した。

 「……コイツらはどうだったのかな」

 「………」

 召喚士に命じられるままに戦って散ったマスラガルト達をロルダンが惜しむ素振りは見せなかった。カドモス以外は消費物としてしか見ていなかったのは明白。このレパラルに残った血痕だけが彼らがこの場に居た証だった。

 「……こんなもんかな」

 「え?……あぁ、もう時間も危ないしね」

 少しぼんやりしている間にフジタカがナイフを畳んだ。パチン、と聞こえて私も周りを見る。

 広がった血は洗い流すしかない。度合いは場所にもよるが奥に行くほど量も多い。……ライさんの魔力が尽きて、魔法ではなく腕力で剣を振るっていたからだ。

 「……ところでさ、デブは?今日一度も見てないんだけど」

 「れ、レブ……?」

 「うん」

 フジタカが頷いて空を見上げたり、建物の影を覗く。だけどそこに、彼はいない。

 「……戻ろうよ。たぶん、レブに会えるよ」

 「お?そうか……。その辺にいると思ってたんだけどな」

 私は詳しくフジタカに伝えないまま、レパラルの召喚士駐在所へと戻る。先に皆も話を聞いているだろうし。

 「……は?」

 「………」

 怪我人の話をフジタカは敢えてしなかった。片付けをしている間に誰に何が起きたのか、自分で想像したらしい。

 だからこそ、駐在所の一室に置かれたベッドで眠るレブの姿を見てフジタカは口をぽかんと開けて固まった。予想外の出来事だったのは私も同じだ。

 「で、デブ……?」

 「……カドモスとの戦いで、レブは勝った。だけど……」

 足を震わせながらフジタカはレブへと近付く。

 「怪我人がいるって聞いてたのに……怪我どころか……間に合わなかったのか」

 「どういう意味だ」

 レブが目を開けて腹筋で起き上がる。痛がる様子は……ない。

 「う、うぉぉぉ!?化けやがった!妖怪ムラサキジジイ!」

 「誰がジジイだ……!」

 いや、妖怪はいいの……?

 「レブ、そんな急に起き上がっちゃ……」

 「ふん、私を甘く見るな」

 ベッドから抜け出たレブは包帯を剥ぎ取ってニヤリと笑った。

 「……治、った……?」

 「貴様に休養を与えてもらったからな」

 私は朝になってからレブがまだ完治していない様子だったので、わざと迎えに行く時に残らせた。大いに不満そうだったがそこは私が意地でも寝かしつけたのだ。フジタカやトーロとすぐに合流するから、と。

 私の頼みを聞いて大人しく寝ていてくれたらしい。体の柔軟をするレブの動きに怪我を庇う素振りは見えなかった。

 「怪我、してたんじゃないのか……」

 「あばらがやられただけだ。半日以上休んで繋がらないわけがない」

 「いや、あるだろ!思いっきり!つーか、あばら!?」

 人間と獣人の治癒力がどれだけ違うかは分からないが、少なくとも半日で動けるどころか全快するなんて事は無いみたい。だけど私はそっとレブの胸に触れた。

 「本当に平気なんだね……?」

 「当たり前だ」

 迷いなくレブは断言する。だけどフジタカの表情は暗かった。

 「……どうしたの?フジタカ」

 「半日だけでも、デブを寝込ませるだけの戦闘だったんだよな……」

 否定はできない。カドモスとレブの戦い、そして海竜戦やライさんがやったマスラガルトとスパルトイへの炎舞。間違いなく、今までのどの戦いよりも激しかった。それをフジタカ達は見ていないんだ。

 「やっぱり俺も……行くんだった」

 「フジタカ……?」

 畳んだナイフを握り締めたフジタカは手を震わせていた。

 「ロルダンがいたんだろ?……親父も、どっかに隠れてたんじゃないのか」

 「それは……」

 私達の前で行われたロルダンの消え方は間違いなくフジタカと……フジタカのお父さんが見せた力と同じ物だった。あの場にいた可能性は高い。

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