俺にも翼があれば。
信号弾が打ち上げられたと言われて、俺達は慌てて準備を始めた。その中身が、俺達にとっても放ってはおけなかったからだ。
海竜を倒した。だが、怪我人がいる。信号の意味は分からなかったが教えられた内容まで把握できない程のバカじゃない。
「……尾を苛つかせても、今の俺達は待つ事しかできないぞ」
「でもさ!」
夜明けと同時に俺達はレパラルに向けて出発している。ニクス様の羽を持った俺は甲板をうろうろしている事しかできなかった。
それがとてつもなく悔しくて。本当だったら俺は、向こうの連中と一緒の方が戦力になったと思う。だって、俺はチコとは繋がっていないんだから近くに居る必要もないし。
「落ち着け」
誰が怪我をしたかも分からない。恐らくあのデブではないだろう。だったらあのツルツルのおっさんか、ウーゴさん。……前線に突っ込んで返り討ちにあったライさんが重傷を負っていたら?……もしも、もしも信号弾の意味する怪我人がザナだったら。トーロになだめられても俺は一息吐くのも嫌だった。この船の揺れと海の臭いに具合が悪くなる。
「……寝てりゃ、着くかな」
「君はその方が良いかもしれんな」
剣の素振りという気分でもない。徐々に明るくなっていく空と海を眺めていると、トーロとは違う声が聞こえてきた。
「ニクスさん……」
「君が必要な時はこの後に必ず訪れる。それまで体力は残してもらいたい」
「俺が……」
自然に握っていたナイフを見下ろすと、先程までの気持ちの昂りが妙に静まった。
「……チコの看病をしてます」
「それがいい」
予言めいた事を言ったニクスさんの横を通り抜けて俺はチコの眠る船室に向かった。結局寝ていようかと思ったけど、うとうとしている間に船はあっさりと着いてしまう。
その後、レパラルに着くと俺の出番は本当にすぐ回ってきた。その場で見た光景はしばらく脳裏に焼き付いて離れなかった。
もちろんライさんが一人でやった紅い港もそうだけど、あのデブが……竜人が苦しそうに寝込んでいたのだから。




