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中身の異変。

 レブは堂々と言い切る。同時に目にも留まらぬ速度でカドモスへと突貫した。自身の体を弾丸と化して鋭くした拳をカドモスの腹へ突き込まんと伸ばす。

 それに対してカドモスは瞬時に身を逸らした。巨体に似合わぬ素早さで握り拳をレブへと振り下ろす。

 「……っぅ!」

 「見事!その体でよくぞ踏み止まった!」

 拳と拳がぶつかり合って派手な音を響かせる。拳圧に髪がなびいたと思えばレブの腕はカドモスと拮抗していた。

 「れ、レブ……!」

 しかし、ずりずりとレブの足が地面の土を削りながら後退していた。……違う、後退させられているんだ。

 「だがぁ!」

 「うぅっ!」

 カドモスの喝と共にレブが聞いた事の無い声を洩らした。

 「竜とは老いて力を増す存在!時の流れに逆行する様な愚行を取ったお主にぃ……!負けはせぬわっ!」

 「ぐあぁぁぁぁあ!」

 「レブっ!」

 拳を振り抜いたカドモスにレブが吹き飛ばされた。力負けしたレブは仰向けに倒れて翼で地面を抉り、私の横も通り抜ける。

 「レブ!しっかりして!」

 「離れていろ……!」

 起き上がったレブは駆け寄った私をそっと押し退け立ち上がると同時に翼を広げる。

 「でも!」

 「貴様にできる事は無い!」

 「っ……!」

 立っていただけ。なのに頭を金槌で殴られた様な衝撃を感じた。

 「逃げろ!振り返るな!」

 「い、嫌だよ……!」

 足が、動かない。震えた私の足をレブは横目で見ると一度構えを解く。

 「カドモスが敵となった以上、逃げるのが最善だ」

 「だからって、そんなのできないよ!」

 レブは頷いた。逃げる理由は純粋に相手が強かったり、怪我をしていたり、足手まといがいたりとそれぞれ異なる。

 今は逃げるに足るだけの条件は幾つも満たしてしまっているのだろう。だけど私も、レブもその一択だけは選ばない。

 「そうだ。だから、次の手を打つ」

 カドモスの方からはまだ動かない。レブの様子を窺っているだけだ。

 「……魔力の貯蔵を空にするつもりで仕掛ける。場合によってはまた貴様の体調を悪化させてしまう」

 「いいんだよ」

 レブが何をしようとしているのかは分かっている。

 「ならば、覚悟しろ」

 「召喚士に言うセリフじゃないよね」

 そういう言い方しかできないんだから。でも、おかげで足の震えは止まった。まして、私にできることだってまだ何も無いと決め付けられては堪ったものではない。

 「オレを打倒す算段はできたか」

 「無論だ。正面から、叩き伏せるのみ!」

 「やって見せろ!」

 今度はレブが跳び上がり、更に翼を広げて高く飛ぶ。カドモスも避けるなんて真似はせずにただレブの一撃に身構えた。

 「………う」

 私達の頭上だけが暗くなる。きゅ、と胸を絞め付けられたが私はまだカドモスから視線を外さない。その間にもパストル所長は海竜に自分のインヴィタド……大海蛇シーサーペントを戦わせている。ライさんの炎は気付くと見えなくなっていた。

 「はぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 「来ぉぉぉぉい!」

 バリバリと音を立ててレブは足に帯電させ、勢いを重力と加速で上乗せさせた蹴りをカドモスに見舞う。一撃の威力であれば先程の拳よりも上だ。にも関わらず、カドモスはまた回避するつもりはないのか先程同様拳で迎え打った。

 「ぐっ!あぁぁぁ!」

 今度呻いたのはカドモスの方だった。腕を押さえて数歩後退すると同時にレブは着地してカドモスの足を尾で払う。

 「ぬぁっ!」

 仰向けに倒れた先にあった建物の岩壁がカドモスの肩にぶつかり、音を立てて崩れる。岩の下敷きになったものの、あの量と大きさでは傷を負わせるには至るまい。

 「………」

 レブは畳み掛けない。土煙が晴れるとカドモスはニヤリと笑いながら起き上がった。

 「ふ、フフフ……。これだ、アラサーテ。こうでなくてはな」

 「偉そうに言うな。慢心しただけのうつけめ」

 そうだな、と言ってカドモスは立ち上がる。ガラガラと音を立てて彼の体から岩が転がり落ちるが全く気にした様子は無い。

 「あぁ。相対しているのは竜人。しかも、時を巻き戻してもお主はあのアラサーテ・レブ・マフシュゴイだ。今のオレでさえも見誤れば倒されてしまうのかもしれぬ」

 「万に一つも勝ち目は無いと言ってくれた方がこちらも諦めがつくかもしれないぞ」

 「はっは。諦め、素直、好意なんて言葉が似合う様な顔をしていない癖によくも口が回る。中身まで若干変わったらしいな」

 同意できる部分もあるけどカドモスはもう簡単に油断してくれそうにはない。これはもう戦闘だ。一方的な狩りには決してならない。

 「謙虚で殊勝な発言をしたお前の方こそ、昔の暴君とは異なるらしいな」

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