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引き返せぬ旅路。

 「問答無用であのアラサーテを召喚するだけの力を持った召喚士……クク、成程。ロルダンが欲しがるのもよく分かった」

 カドモスの笑みに含みが生まれる。だけど私はそんな大げさな表現をされる様な召喚士という自信は持ち合わせていなかった。

 念を押すが今は違う。召喚陣の誤作動とかレブの方から来たと最初は思っていた。でも間違いなく、あの時私は願ったんだ。レブに来てほしいと。

 「鼻を伸ばすなんて醜態は晒さなかったが、この召喚士と共に在る事は実に心地好い」

 「お主の口からそこまでの褒め言葉が出るとは、数千年に一度の驚きだ」

 今の、褒めてるのか。鼻の下を伸ばしてはいなかったけど、ブドウを前にすると人格変わるよね。

 「だがなアラサーテ。それはお主を堕落させた」

 カドモスが人差し指をレブに向けて断言した。微かに目を細めたレブは何も言い返さない。

 「生物は老いる。そしてやがては衰えた末に朽ちるものだ。積み重ねた年月や経験に体がやがて追い付かなくなり、忘れ錆びていく」

 人間もそうだ。いつか体力の頂点を迎え、あとは少しずつ同じ事ができなくなる。

 「しかし竜とは生物の中でもその理に縛られない。過ごした幾年月は全て蓄積されて自身の力へと化す」

 「竜人である私が理解していないわけがあるまい」

 「その通りだ」

 そっとカドモスは腕を下ろした。

 「故に、解らぬのだよアラサーテ。今の見違えたお主を見てな」

 「………」

 レブの横で私はカドモスが何を言いたいのか気付いてしまった。

 「お主があの世界で培った力をどこに置いてこの境壊へ来た。研鑽を重ね、更に鋭利となったお主がオレの前に立つのならまだしも」

 私の……せいだ。

 「今のお主で、オレに勝てるとのたまう程の自惚れは見せまい」

 「あ、あ……」

 そこで、初めてカドモスの表情に別の色が乗る。殺気という不吉の象徴を眼力に纏い、金色の竜は私達を見て、構える。

 「ザナよ。オレにスパルトイを止めた理由を問うたな」

 動機が激しくなってきた私を見てカドモスが何を想っているかまでは、見透かす余裕が無い。

 「ロルダンには自身の力で状況を打開してもらおうと思った。あの獅子の状況なら知らないでもない。怒らせたのはロルダンの言い回しのせいだしな」

 ロルダンもベルナルドに自業自得と言っていた。それが自分自身に戻ってきているということだ。

 「ならば、お前もあの老いぼれの力の一部ではないのか」

 「………ふむ」

 レブに言われてカドモスは目を丸くした。

 「その通りだな。召喚に応じた以上、オレにこの世界を這う力を与えた召喚士の力にはなるべきか」

 ギギ、と錆びた蝶番が動いた時の様な音を立ててスパルトイが動き出す。

 「アラサーテよ。お主の発言があの獅子を殺したぞ」

 「それはどうかな」

 スパルトイは私達を無視してライさんの方へと向かう。

 「妙な自信だが、ならば後ろの海竜はどうする」

 パストル所長は走って船や私達から海竜の注意を引き付けてくれていた。

 「ええい、人頼みにするよかこっちの方が手っ取り早いわな!」

 大声を張って所長は腕輪から一枚の召喚陣を取り出した。輝くと同時に現れたのは巨大な青い蛇だった。首から着水すると水中と召喚陣を自身の胴で繋ぎ、最後には尾も陣から飛び出て海の中へと姿を消す。

 「邪魔だけはすんなよ!」

 「は、はい!」

 パストル所長の戦闘を実際に見た事は無い。だけどあの口振りからして最初から私達を頼らずともある程度戦うつもりだった様だ。

 戦いたくても立場上動けなかったのかな。……でも、サロモンさんの前例もある。一人に任せては危ない。ライさんだって同じだ。炎の切っ先が度々姿を現しているから場所はある程度把握できているけど、ウーゴさんを置いてどんどん離れている。

 「つまり、問題はお主らとオレだけというわけだな」

 どこも予断を許さない状況だけど、ライさんもパストル所長も全力を尽くしている。幸いカドモスは良くも悪くも油断はしていない。

 だからこそ、私達の戦力差に対して冷静に告げている。今のレブでは、カドモスに勝てないと。

 「話を聞くに、オレ達につくつもりはないらしいな」

 「そうだ」

 カドモスも、ロルダンも。まだ私達を諦めていない。

 「フエンテの目的を正しく知った今でも答えは変わらないのか」

 「そうだ」

 レブは淡々と答えながらじりじりと足を広げて身構える。

 「最後の確認だ。オレはロルダンの……あの双子がお主らに行った所業を知った今でもフエンテだ。そんなオレへ、勝てもしないのにお主は挑みかかってくるか」

 「そうだ!」

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