新たなもう一人の竜人。
スパルトイがぞろぞろと出てきて全身が震える。その数の多さは今までの出し惜しみを感じさせない。それに加えてマスラガルト達も引き連れて現れる。マスラガルトよりはスパルトイの方が少なかったが今までの倍以上は軽くいた。
「漸く出番か、ロルダン」
そして何より奥から現れた巨体に声を失った。平屋と同じくらいの大きさをしてそれは、間違いなく生き物だった。ゴーレムやタロスの様な物ではない。タムズの様な虫でもない。
この自然溢れる島のどこにいたのかと思わせる程に派手な光沢を放つ鈍く暗い黄。人は一目で金色と呼ぶ鱗を全身に覆い、その下の体は歪に所々膨らんだ筋肉が鱗に負けず劣らずにてらてらと陽を反射していた。
何よりもそんな巨体に二つだけある目には理性が宿っていた。そこがアルゴスや他のビアヘロ達との決定的な違いだった。首が長いからか、レブの真の姿よりも頭一つ分大きな存在はスパルトイ達の動きに誘発されて姿を見せたらしい。
「竜人に立て続けに会うか、普通……!?」
パストル所長は冬にも関わらず汗を一粒滴らせた。私も胸に今まで感じた事のない熱を帯びている。
目の前に出現した相手を私は知識で知っていた。黄金の鱗に長い首、強靭だが膨れ上がったイボ付きの体をした……竜人。
「カドモス」
レブがその名を呼ぶ。カドモス・テーベ・アーレウスは自身の名を知る竜人へそこでやっと目を向けた。
「オレの名を知っている……。アラ、サーテ……?お主、アラサーテか!」
レブの名前を知っている。本当に知り合い、らしい。
「ちょいちょい、お前ら。止まれ!」
自分の横を通り抜けていくスパルトイに笑顔らしき破顔で呼び掛けると、次々に足が止まる。しかしマスラガルトは別だった。
「この……。邪魔をするな!」
「グッ……フギャ、グガァァァァァ!」
一体の首の根をむんずと捕まえ、そのまま握力で握り潰す。骨が砕け、叫びと共に首が体に逆らった方向へ曲がる。
「ロルダン」
「これは失礼。儂の落ち度でしたな」
目の前で同族が殺されたせいか、マスラガルト達の足が止まる。しかし、全員がカドモスに背中は向けない。
「これでよし。まさかこんな異邦の境壊で友とまみえようとは!」
握り潰したマスラガルトを放ると民家の外壁に勢い良くぶつかった。血をべっとり溢して壁に塗られるのも構わずにカドモスは腕を広げ、かつての友との再会を祝している。その違和感に寒気が止まらない。
「久しいではないか!まさかオレに会いに来たのか!」
「違う。だが、お前に用事があったのも事実だ」
「相変わらず素直に物申せぬ奴め」
レブが捻くれていると知っている。……私がレブに出会うずっと前から。
「ロルダンめ。オレを追う竜人がいるなどと言うから、どんな愚か者かと思えば。アラサーテが来ているのであれば早く申さぬか!」
「お気に召した様で何よりです」
カドモスは笑顔でロルダンと話している。それだけで二人の関係はしっかりと築き上げられていると察しはついた。マスラガルト一体を殺したのに動じなかったのは、日頃の行いに似た様な状況が多々あったのだろう。
朗らか、ではある。だけど底知れない。そんな第一印象を抱くと目が合った。
「……少女の召喚士が竜人を連れて現れる。アラサーテよ、そこの華がお主の召喚士という事か」
「そうだ」
レブに確認を取ってから再び私は見下ろされる。
「アラサーテをあの姿にしたのは、お主か」
「……えぇ、そうです」
私のインヴィタドに習い簡潔に答える。最初にレブと気付いた時点で凄いとは思ったけど、聞き流す程大雑把でもないらしい。前はもっと小さい姿にしてしまっていたとまで教える理由は無かった。
「華よ。名は」
「……ザナ、です」
さっきもだけど私を華とか言うのは止してほしい。レブの友人、と言うのなら私にとっても無碍にはできないが。
「ザナ。良い名だ」
カドモスはレブを見て笑う。
「オレもロルダンの様なジジイよりも若い華の娘が良かった。羨ましいぞ、アラサーテ」
「ふふん」
レブが得意げに華を……違う、鼻を鳴らす。私が睨むと咳払いして緩んだ表情を引き締めた。
「……。旧来の友よ。再会に興じる為に私はこの場へ赴いたのではない」
「オレを未だ友と呼ぶお主が、尚も目的を果たそうとする。理解できないが、故に話をしたい」
互いに友人同士と確かめ合いながらも、立ち位置の違いも認識している。それでもすぐに殺し合いではなく話し合いを選んだ。見た目よりも血の気が多くなくて私は安心すると同時に、胸を押さえる。




