連帯責任。
「レブの事だって心配なんだから」
「気持ちは有難いがな。杞憂でしかない」
強がりでもなく心からそう思って言っているのは、その自信満々の口調からもよく分かる。発言を裏打ちする様な頼もしい肉体に抱かれながら私も目を凝らして海竜を探した。
そのまま日没を間も無く迎えるところでパストル所長が操舵室から姿を現す。先に私が見付けてレブに言うと静かに下降して、再びライさんが立っていた位置辺りまで移動してくれた。
「異常は無さそうだな?」
「はい!」
「……って!あぁぁぁぁぁ!?」
レブと二人で海を監視していたんだ、その中で海竜や他のビアヘロを見掛ける事は無かった。だからこそ私ははっきりと断言したのに、パストル所長は悲鳴を上げた。
「ど、どうしたんですか!」
「これぇ!」
パストル所長が手を上下させて下を指差す。私は船の底の方を見たが魚影も何も見当たらない。
「違う!もっと上!つーか、これ!」
再び叫ぶ所長の声に合わせて慌てながら顔を上げると、そこはただの船縁だった。
「うーん……」
指差した場所、それはたぶんライさんがちょうど私達と会話をしていた場所だ。……よく見ると、昼間のライさんの爪跡が刻まれている。
「あ……」
「誰だ!俺の船に傷作ったやつぁ!」
「うっ……」
青筋を浮かべて声を張る所長に二人で顔を見合わせる。正直に言っても良いのだろうけど……。
「………」
レブが鼻を短く鳴らした。
「これから海竜と戦いに行く男とは思えない発言だな」
「なにぃ!アンタが犯人か!」
レブを睨んで唾を吐き散らしながら所長は怒鳴る。その形相は昼のライさんに勝るとも劣らない勢いだ。
「私が犯人だとしたら追い出すとでも言いたげな顔だな。だがそれは関係ない。私抜きで勝てるだけの戦力をこの海上で、契約者が追い付くまでに用意できるとは思えないからだ」
「ぐ、ぬ……うぅぅっ!」
その傷を作ったのはライさんだから関係無いのも事実。だけどライさんがそんな傷を船に作るだけ挑発したのはレブだ。無関係と言い張るには若干の抵抗が残る。加えて、たぶん今からとっておきのインヴィタドを用意するのも難しい。だから所長も顔を真っ赤にして言い留まっている。
最初の一言をレブに任せた私も同罪、だよね……。私はレブの腕を軽く叩いて船に寄ってもらう。
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!私達のせいです……」
「う、むぅ……」
謝っても傷は修復されない。だけど謝ってしまえばそれ以上強くも言われない。だからズルい選択をしてしまった自覚もある。
「はぁ……。まぁ、しゃあねぇわな……」
レブが事実を突き付けた後だから余計にそう思い込むしかない。治まりが悪いのは分かるがパストル所長も怒り心頭状態からは脱してくれたみたいだった。
「……ザナだったな。君がやらせたのか」
「いや……」
「あの獅子を私が怒らせたのだ」
そうなんだけど、こっちの心の準備ができてない状態で話を進めないでよ。言葉が纏まってないんだから。しかしパストル所長は一息吐くと笑顔を見せてくれる。
「なんか分かる気がするよ。アンタ、敵が多そうだ」
「今のところ向かう所に敵は無い」
「無敵ってか。はっ!確かに……強そうだし、敵もだが味方も多そうだ」
うん、今まで戦ってこられたのはレブ一人のおかげではない。フジタカやチコ、トーロやティラドルさん。たくさんの人が助けてくれたから今の私達がある。パストル所長と目が合うと、顎に手を当てて首を傾げた。
「で?なんで抱き抱えられてんだ?召喚士は下がってればいいだろ」
仰る通り、ごもっとも……。
「下がれないんです……。船酔いが酷くて……」
目を丸くし固まってからパストル所長はぷ、と吹き出した。
「はぁ!?それであんなに意気揚々と船に乗り込んだってか?だぁっはっはぁ!こりゃあ傑作だ!海竜退治に乗り出した召喚士が船酔いを紛らわす為に空中に出たって?あーっはっはっは!」
「うぅ……」
膝を叩いて笑うパストル所長に、私はさっきの所長とは違う意味で顔が熱くなってきた。
「戦力を一人減らすが問題有るまい」
「止めて」
先に怒らせたのはこっちなんだから。それを抜きにしても私とウーゴさんだけじゃ……。
「はぁー……笑った笑った。俺の船に傷付けた獅子獣人とその召喚士……ウーゴさん?でいいんだよな?アイツらはどこ行ったんだ」
「ウーゴさんは船酔いで寝てます……」
「………」
流石に二度目は笑わなかった。
「大丈夫なのかよ……」
「ライさんは強いし、レブもこの通り!まだまだ元気なので!」




