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強がって、集まって。

 「ウーゴさん……これ、使いますか」

 「それは……!」

 見ただけでどういう代物か分かってしまったのかウーゴさんの目が輝く。もう、あとには引き返せない。

 「酔い止めにはなりますから」

 「しかしこれは……」

 どうして私が予め持っていたのかウーゴさんなら察しがついてしまう。だけど努めて私は笑顔を作った。

 「前に怪我した時に貰った物をずっと持っていたんです。今も効果があるかは分かりませんけど……」

 今日まで効果が切れたとは感じなかったから、ウーゴさんに渡った途端に無力と帰す事はないと思う。

 「寝ておけウーゴ。見張りなら俺が引き受ける」

 海を見ながらライさんが声を張る。船の揺れと風に合わせて揺れた鬣で隠れた表情は読めない。

 「だけどライ……」

 「オンディーナの維持に集中してくれれば、俺でもどうにかできる」

 「……分かった。船室にいる。何かあれば言ってくれ」

 ライさんはコクン、と頷くだけで返事として海を見ていた。苦笑したウーゴさんに私はニクス様の羽を手渡してやる。

 「とりあえず手に持っていてください。吐く程の船酔いも、なんだか気分が悪いくらいまでには抑えてくれます」

 「お借りします。見張りの交代もいつでも言ってください」

 「ありがとうございます」

 船室の閉まる音が波の音に紛れて聞こえてきた。それと同時に私には何かが込み上げてくる。この一方通行の食道を、入口から出口に変えようとするこの感覚、忘れもしない。

 「れ、ぶ……」

 「いいだろう」

 レブが私を抱えて翼を広げた。低空飛行を維持するのも楽ではないだろうが、幸い船に合わせて前へも緩やかに飛ばなければならない。バサバサ翼を動かしていれば揺れるだろうが、風に乗っている分には揺れも少ないので酔う事も無かった。

 「やっぱり、船には弱いじゃないか」

 こちらは見ずにライさんが口を開いた。

 「……本当はニクス様の羽で慣れてもう平気!だと思ったんですけどね……」

 自分に耐性がついたと思えればあとは無理にでも我慢できると考えていた自分が情けない。病は気からではない、元からだ。

 「ウーゴから取り返そうか?君にも必要だろう」

 「いいんです」

 「私がついているからな」

 ゆったりとレブが傾き、身体が船縁を越える。私は抱えられるままにレブへ身を委ねた。そのまま私達は船縁に腕を乗せていたライさんの横へ滑る様に移動していく。

 「快適な乗り心地の様だな」

 「ライさんは平気なんですか?」

 頷いたライさんは穏やかに微笑む。

 「俺はな。だけど我儘がいてな。歩くのが疲れたからと言ってたまに馬車を使えば気持ち悪いと……あ」

 流暢になった口調が段々尻すぼみになっていく。話の内容はなんとなく……なんとなくだけど、ウーゴさんの事ではない気がした。

 「……すまない」

 「謝らないでくださいよ」

 何もライさんは謝る様な話はしていない。もしかしたら私が誰の話を聞いているのか気付いたと顔に出ていたのかも。

 「はは……。怪我をして貰ったと言っていたが違うな。船酔いが平気なら、あそこまで船酔いの症状を比較して語る事はできない」

 「嘘は短く、ですね。ボロが出ちゃうから」

 まったくだ、と言ってライさんは無理に笑顔を作る。そう、本当は船酔いに苦しむ私達を見かねたニクス様が下さった物だ。

 「ライさんにも、ニクス様の羽が必要なんじゃないですか?」

 「俺に?……そうは思わないな」

 話をしながらも当然、自分の任務は忘れていない。穏やかで静かな海を監視する目は光らせてある。

 「だってライさん……ずっとまともに休んでいないじゃないですか」

 現状、光らせた目に留まるのは……どうしてもライさんの姿だった。アスールに着いた時の様に、ほんの一瞬肩から力を抜いているけど外に出ると途端に目付きが変わる。今の私達と話をしている間も目が据わったままだ。

 「人間と一緒にしてもらっては困るな」

 「私達と違うのは分かります。その力を頼りにもしています。ですが、獣人や人間と言う前に生き物としてそう遠くないじゃないですか」

 レブが急に私を抱く手に力を込めた……気がした。彼の顔を見ると引き続き海を警戒していた。

 「……あまり、寝ていないんじゃないですか」

 「………」

 だから目付きも鋭くなってしまっている。寝不足で頭痛や何かを併発しているかもしれない。

 「俺は、平気だ」

 自分に言い聞かせる様な強い口調にレブの目もしばしライさんを向いた。

 「召喚士だけ休ませても、自身の力を扱うのは我々なのだぞ。この娘は例外だがな」

 「……承知している」

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