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後退だけはしないで。

 だけど、ニクス様は身を呈してでも人を助けたいと思ってくれたから、レブと口裏を合わせられたんだ。二人の調子があんなにも噛み合うとは思わなかった。

 「……契約者の意を尊重します」

 私達が取り囲む様に言うものだから、カルディナさんは根負けして宣言した。ウーゴさんとライさんもカルディナさんの一言で前に出た。

 「方向性は決まったな」

 「ですが、契約の儀式はどうされるのですか?」

 「カスコへ優先して向かい、帰路のアスールで儀式を執り行う」

 パストル所長に話した時点で決めていたのか、ニクス様は迷いなく言った。だけど、来ておいてアスールを後回しにするというのも……。

 「すぐに戻れますか?」

 「ガランまでの船旅だって長いのよ。……まして、カスコにまで行っていたら……」

 カルディナさんは資金繰りや往路を考えて頭が重そうだ。

 「あの……」

 そこにフジタカがゆっくりと手を上げる。発言に許可なんていらないのに、癖なのかたまにやってるんだよね。

 「チコの事、どうするんですか。今は動けないと思います」

 「それも問題よね……。抱えたまま船なんてのも……」

 まして、海竜が泳ぐ海の上だ。襲われて、戦闘になって身動きが取れないのでは話にならない。

 「フジタカ君だってチコ君が本調子でなければ力も使えないかもしれないしね」

 「………」

 カルディナさんは考え込んでフジタカの表情を見ていなかった。だけどその方が良かったと思う。

 「すまん」

 私が肘でつつくとフジタカはすぐに気付いたのか口元を引き締め直した。だって、いきなり石を投げてぶつけられた子どもの様な顔になったんだもん。……トーロとニクス様には見られたかも。

 でも、フジタカがビアヘロだと知られるには早い。隠し事をしているのは気が引けるし、いずれは知られてしまうかもしれないがまだフジタカの立場を確立できていなかった。チコにもフジタカの力は必要だし。

 「だったらこうするのはどうだ」

 皆の視線がライさんに集まった。

 「先陣を切って海竜と戦う者と、チコ君を連れて追う者の二班に分ける。ニクス様とチコ君には後続で客船に乗って来てもらい、先陣班は海竜を討伐した後に後続班と合流。その後はアスールに戻らずガランへ向かう」

 ただでさえ少数の私達が更に二手に分かれる。ニクス様の護衛は手薄になり、どちらにも危険性は増す。まして海竜相手に怪我をすれば、負傷した状態で私達は海を渡らなければならない。


 「乗った」

 山積みの課題の中でいの一番に賛同したのはニクス様だった。契約者の意思を尊重したがったカルディナさんが頭を余計に抱える事になったのは言うまでもない。

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