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疾病迫るアスール。

 「貴様は遂げたい目標へ挑めば良い」

 レブが立ち上がった。

 「その先に必ず、私達の道が交わる日が来る」

 「……うん」

 だったら今は、今に全力を注ぐ。明日はもっと先に進んでいる為に。二人でもっと強くなっていく為に。

 「あれ?」

 フジタカが首を傾げて私達を見ている。置いてきぼりにしちゃったけどそういう事だ。女の子らしい夢を見るのも悪くないけど、私は召喚士であり続けたい。

 「断言していいのかよ。そんで、ザナはそれを受け入れるのか……」

 「えっ」

 あ。レブはそんな日が来るかもしれない、じゃなくて来るって言ったんだ。

 「無論だ。本人も言っていただろう」

 「えっえっ」

 それで私はうん、なんて頷いてたんだ……。レブは尻尾をびたんびたんと床に擦らせてたぶん興奮している。

 「なんかお前ら……放って置いてももう大丈夫そうだな」

 私達を見守りフジタカの表情が和らぐ。勝手に納得しないでよ!

 「ちょっとフジタ……!」

 言い欠けたところに部屋の扉の向こうから大きな音が聞こえた。一度だけだったが扉を叩く様な音だ。私とフジタカは肩を跳ねさせて扉を見る。

 「……ザナが怒鳴るから」

 「怒鳴らせる様な事言わせたのは誰さ」

 うるさくし過ぎたかな……。怒るとしたらやっぱりライさん?それともトーロかカルディナさんか……。

 「う……」

 「チコ?」

 扉を開けると、そこに立っていたのはチコだった。部屋の中へ入るとフジタカの姿を見付けて数歩。床の板と板の隙間に足を引っ掻け前に倒れる。

 「チコ!」

 気付いた時にはチコは転んでしまう。フジタカと私が駆け寄っても動かない。

 「おいチコ!チコ!」

 フジタカが呼び掛けながら揺り起こす。仰向けに寝かせてチコの顔は汗を滲ませ真っ赤にのぼせていた。

 「熱があるじゃねえか……。おいチコ……」

 「うっせ……。頭痛いんだから……静かにしろよお前ら……」

 唸りながらチコはフジタカに悪態を吐く。見かねたレブがフジタカの腕の中からチコを取り上げ抱えた。

 「部屋に戻すぞ。見栄を張って、一人で医者を探して力尽きたらしいな」

 「く……」

 減らず口を叩く、なんて余裕も無くチコは呼吸を荒くしているだけだった。フジタカに部屋へ入れてもらい、ベッドに寝かせると私達はまずカルディナさん達の部屋へ向かった。

 「チコ君が……熱?」

 「風邪っぽいんですけど……」

 事情を説明すると、カルディナさんは表情を険しくしながらもトーロに医者を呼ぶように言ってくれた。だけどチコが急変した理由が思い付かない。

 「この辺りで疫病が流行っているなんて話は……」

 「無いわ。海を渡って持ち込まれたなんて話も特にはね」

 だったらチコだけ倒れる理由なんて……。

 「一人で無理をしていたのかしら」

 チコの部屋の前まで移動して、私達は扉を見詰める。

 「俺が気にしててやるべきだったんだよな。アイツが突っぱねても」

 「フジタカ……」

 拗れてしまったのは何もウーゴさんとライさんだけではない。フジタカもチコを相手に距離感を取り直していたんだ。前よりも話す事が減ってしまったのは彼がビアヘロだと判明してから。今でこそ雑談はしていても、どこか前よりも余所余所しい。

 「貴方達、ケンカでもしたの?前からそういう時があったけど……」

 「どうなんすかね……」

 「ケンカしたなら、少しは大人になってあげないと。魔力だって貰ってるんだし」

 はぐらかすフジタカに対して、知っている自分が口を挟めないのが悔しい。

 「……なんて、チコ君も思い込みが激しそうだしね。意固地になってやせ我慢してたのかしら」

 カルディナさんは場を和ませてくれようとしたんだと思う。フジタカが悪かったのではないと。

 「いや、チコは悪くないです。気付けなかったのは俺だ」

 「フジタカ君……?」

 体調の自己管理ができていなかったと言うのは簡単だ。だけどフジタカは気にしているんだ、自分が変に壁を作ったせいでチコに我慢させてしまったのだと。

 お医者様が来て診察する間にウーゴさんとライさんも部屋からでてきた。診察が終わるとチコの病状は単なる風邪。数日安静にしていれば治ると薬も処方してもらえた。

 「………」

 チコが大した事がないと分かった反面、嫌な話も耳にしてしまった。ニクス様に会う前に顔を合わせた全員でパストル所長が昨日話していた事を思い出す。

 ビアヘロに襲撃されて出た重傷人はもう、立って歩けないかもしれないそうだ。傷の縫合は済んだものの大腿がズタズタに裂かれていたらしい。そこまでの怪我ではおそらくニクス様の羽を使用しても効果があるかどうかは半々だ。

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