決めるのは自分。
「あーぁ。なんでお前は俺が教えたって言っちゃうかなぁ」
フジタカは頭の後ろで手を組んでレブに向かって口を尖らせる。
「私は出典元を明らかにしただけだ」
「元ネタは俺じゃないんだけどな」
教えた張本人に言い逃れなんて許さない。私が睨むとフジタカは尖らせた口を緩めてぎこちない笑顔を作る。
「よく言うよ……!」
「そう怒るなって……。で、何を言われたんだ?」
「フジタカぁ!」
今度こそ私はフジタカに対して怒鳴る。やっぱり懲りてないんだから!
「俺は女心を分かってないデブの方に問題があるから知恵を貸しただけなんだ……」
しばらく続いたお説教が終わる頃には、フジタカの耳も畳まれて俯いていた。彼の住んでた国の文化に則り正座させたのが効いたみたい。
「ふん」
ベッドからレブの足が畳まれたフジタカの足の裏へ伸び、軽く突く。
「う、うごぉぉぉ……!」
それだけで足の痺れが刺激されたフジタカは悶絶し姿勢を崩した。
「何しやがるデブ……!」
「良い姿だな」
笑うレブの隣に私も座る。
「レブだってこうなるかもしれないよ……?」
「………」
レブがフジタカを見て沈黙する。竜人が足を痺れさせたりする事なんてあるのか分からないが、レブ次第では痺れさせるまで説教を続ける覚悟はできている。
「……はぁ」
だけど、疲れてしまった。
「あのさーフジタカ」
「なんだよ……!まだ言い足りねぇのか……」
フジタカは懸命に血の巡りを戻そうと足を揉んでいた。やり過ぎたかな……。
「違うよ。フジタカ自身はどうなの、って思ってさ」
「どうなの……って?」
なんとか胡座を掻けるまでは回復したフジタカが起き上がって首を傾げる。
「自分じゃ恋愛したいとか、思わないのって事」
「あー……どうかな」
彼はトロノ……と言うより今では東ボルンタ大陸では有名人だ。召喚士どころか近所の子ども達だって名前を知ってるくらいだもん。一人や二人、フジタカに淡い気持ちを持ってる女の子だっているんじゃないのかな。
そう思って話を振ってもフジタカの顔色は優れない。足の痺れではないと思うけど……。
「俺ってさ、良い人止まりなんだよな。好きな人ができても」
「なんか……分かる気がする」
友人としては一緒にいて楽しそうだけど、恋人にするかどうかとなると……うぅん。って、本人を前に言ったら……。
「つーん」
「ごめん……」
そりゃあ怒るよね……。
「慣れてるけどさ」
「でも、オリソンティ・エラに着いてからも出会いとかはあったでしょ?」
フジタカは前にトロノの郵便局で手伝いをしていた事もある。自分一人で出歩く事だって多少はあっただろうし。
「そう言われてもな……」
「面食い、と言うのだな」
「レブ」
私が一声で黙らせる。しかし、その言葉ならフジタカ独特の表現でもない。
「獣人じゃなきゃ嫌とか?」
「そうじゃないよ。ただ……」
フジタカが膝を抱えて沈む。
「そう言えば俺……恋愛相談には前から頼られるのに、彼女いた事……」
まずい部分に触れてしまったらしい。
「あの、フジタカ……」
私が一歩近づくとフジタカは立ち上がって後ろに跳んだ。まだ痺れが残っていたらしく着地した途端に足を小刻みに揺らす。
「う、うるさい!俺にだってそのうち美人の彼女ができるんだ……!」
恋人が欲しいとは思ってるんだ……。
「ザナの方こそ、ステキな恋人に憧れたりしないのかよ?お互い青春真っ只中だろうに」
「えっ……」
フジタカからの返しに私は言葉を詰まらせた。レブもゆっくりと私の方へ首を向ける。
……前からそうだった気がする。私は単に興味が無かっただけだと思っていた。でも、自分達と似た様な年代の者は皆が顔にニキビなんて作りながら恋をしている。大人になっても続いて、やがて二人は結ばれ子を宿す……。
私にとって家庭を誰かと成そうなんて考えが浮かばなかったんだ。どうしてか、と聞かれたら……。
「この娘は召喚士として遂げたい目標があった」
レブは私もフジタカも見ずに呟いた。……以前、レブには話したっけ。
「……変かな。召喚士として一生過ごしていくつもりで何年も過ごしてきたのって」
「あ……」
フジタカの言っている事、言いたい事も分かる。他にも選択肢はある、って事だ。召喚士として血を流すよりも、誰かのお嫁さんとしてどこかで静かに暮らす。そんな幸せだってあるのかも、しれない。
「妙な事聞いちゃったね」
だけど私はもう、この選択で進んでしまったんだ。レブが見せてくれた夢にまだ戸惑ってしまっている。フジタカの提示してくれた可能性に、怯えていた。




