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フラストレーションドラゴン。

 「落ち着け」

 平然と言ってのけた方は堂々と開き直っているし……。バタバタと毛布を蹴っていた足を止めて私は突っ伏した。

 「今は確かめられた。それだけでも私にとっては十分だ」

 「………」

 レブはそう言ってくれたけど……。

 「今は、でしょ」

 「そうだ。今は、だ」

 明日は?その先は?きっとどうなっているか分からない。確かめたのはレブだけではなく、私の方も同じだった。

 翌朝になって私は廊下を歩いていたフジタカを捕まえて部屋に詰め込んだ。勿論、昨晩起きた出来事に関して言っておかねばならない。

 「朝飯どうするか、先に出てったチコに聞こうと思ったのに」

 「話はすぐに終わるよ。フジタカ次第だけど」

 いつも通り私よりも先に起きていたレブはベッドに座ったまま腕を組んでいる。私が寝る前と同じ体勢だけどそのままだって事はないよね……。聞いて答えないなら正解だろうし。

 「……昨夜の事か?」

 「く……っ!」

 目を伏せて無言を貫くレブを横目で見たフジタカは頭を掻いた。知ってたな!しかも!

 「聞いてたの……!」

 「聞こえてきたの。あんまりにもおっきい音だったからさ」

 ……音?

 「その、なんだ。……意外と早いんだな、デブ」

 「何の話をしている」

 レブは片目だけ開いてたどたどしく話すフジタカを睨んだ。

 「いや……え?したんじゃ、ないの?ベッドもギシギシ音鳴ってた……し」

 冷水で洗顔したばかりの顔がどんどん熱くなってくる。フジタカが何を言ったのか雰囲気で伝わってきた。

 「あれは私がやったの!」

 「ザナから押し倒したのか!?」

 「ちっがぁぁぁう!」

 怒鳴ってフジタカが耳を畳む。レブがこちらを見たので声を押さえる。そうだ、もしかしたら今も両隣に人はいるんだった。

 「はぁ……。どこまで聞こえてたの」

 「俺は途中まで耳を澄ましてたけど……。とりあえずチコには聞こえてないだろ」

 音は聞こえても、中身は見えていない。フジタカだって会話の全部は把握していないみたいだし、だからこそ余計に拗れていると言うか……。

 「とにかく、私達は何もしなかったからね?」

 「……ふーん」

 私と話をしているのにフジタカはレブの方を見て鼻を鳴らした。

 「それを俺に伝える為に呼んだのか?」

 そうだった。本題に入る前からフジタカに調子を狂わされていた。レブと一夜を遂げたとかそんなんじゃなくて!

 「違う。レブに変な事を吹き込むの、止めてくれない?」

 「………」

 そもそも、いつの間に話しているのか。私だって四六時中絶えずレブの隣にべったりくっ付いているわけじゃない。フジタカと一緒にいるレブの姿を遠目に見た事は何度だってある。

 それにしてもだ。ちょこちょこ会話に出てくるブドウの妙な知識と変わった響きの単語は探ってみると、大抵がフジタカの入れ知恵だった。

 「えー」

 長い沈黙を破ってフジタカが私へ向けたのは抗議だった。また怒りそうになって声をなんとか押さえて私はフジタカに詰め寄る。

 「えーじゃないよ……!」

 「だってお前ら、いい加減焦れったいんだもん」

 「う……」

 フジタカが目を狭めて私に言い返す。レブを見れば、目が合ったのにゆっくりと閉じてそのままで硬直した。

 「聞けば、デブのアプローチにザナの方が応えないんだろ?だったら俺が一肌脱ごうかなってなるわけよ」

 へその出た上着の端をわざと捲って見せるフジタカに悪びれる様子は無い。

 「あぷろーちは知らないけど……」

 「私は待つつもりでいる、とは話したのだが」

 なんとなくで意味を察しているけど、レブに対して私が何もしていないのは本当だ。レブがずっとでも待っていると言ってくれたから、その言葉通りにしてしまっている。

 「最初にチューしただけじゃ物足りないんだろ?」

 その話も随分前の事の様に感じてしまう。だけど未だに覚えているんだな……。

 「………」

 物足りないんだ……。で、もう少し求めてしまったら我慢できないんだ……。

 だけどそうさせてしまったのは、私か。

 「ごめん、レブ……」

 「この道を選んだのは私だ。貴様が気にする事ではない」

 私はレブに突き放される様で、包み込まれているんだ。レブが我慢してくれているから、その分だけ自分が好きに動けている。

 「それで良い、ってんなら俺からは何もしない。けど、デブの方が求めてくるんだもん」

 「フジタカの体を……!?」

 「異世界の文化をだ」

 あ、あぁそうか……。チューの代用をフジタカに求めてたらどうしようかと思った。それは私もちょっと我慢できないかな……。あんまり想像もしたくないし。

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