状況確認。
「レブ、さっきの……」
「貴様のおかげで飛竜如きを相手に遅れは取らない」
「そうじゃなくて。怪我!」
無遠慮にぺたぺたとレブの腕を触ってみる。ワイバーンの吐いた炎で全身を焼かれただろうに、レブは平然と私の前に立っていた。下の服が若干焦げ、ススが触れた私の手を黒く染める。
「位の低い竜の炎に焼かれるなど、面汚しも良いところだ」
飛んでいる間に何度か激突していた場面もあったけどレブは屈んで服の汚れを睨むだけ。どこも怪我はしていないみたい。
「良かった……」
私が首飾りを押さえるとレブは顔を上げてこちらの表情を覗き込む。
「私はそんな顔をさせる程に頼りないか」
「………」
そんなつもりでいたんじゃない。レブは自分が頼ってちゃいけないと思う位に頼もしい。
だけどこの気持ちを思い出してしまった。
「レブが……レブがいなくなっちゃうって、思った」
こちらを励まそうと顔へ伸びかけた大きな紫の手が止まる。
「ペルーダやタムズの時とは違う。レブは変わってくれた。それをあの人……ロルダンは……」
周りも私の調子がおかしいと気付いてくれる。だけどこれは私とレブの問題だ。頬へ伸びかけたレブの手は私の頭頂へそっと乗った。
「貴様は竜と言う存在をよく知っている。この場にいる他の連中よりもな」
「お前、そういう言い方すんなよ」
フジタカがニエブライリスをしまいながらゆっくりと私達の会話に入ってくる。
「竜はなんだって怖い、それがこの世界の人間だろ」
「しかし……」
レブは割って入るフジタカへ何か言いたげにしながら私を見る。やがて溜め息を吐いたのはフジタカの方だった。
「あのじーさんが呼んだ竜より自分の方が断然強い。だから……」
「心配無用だ」
言葉を訳してくれようとしたフジタカの最後をレブが引き取る。その言葉に私は目を丸くした。
「あ、いや……。私は……」
「ちゃんと言えんじゃん」
フジタカがぐにゃりと口を曲げて笑うと肘でレブの脇腹をつついた。
「……当たり前だ」
肘を退けながらレブは苦笑すると咳払いをした。
「貴様はティラも知っているではないか。あの飛竜もトカゲ男も、ティラに比べれば格段に劣る存在なのだぞ」
「……うん」
言いたい事は分かった。ティラドルさんにも勝てる自分が、ワイバーンに負ける筈がない。
「だけど、カドモス……には」
「………」
私が名前を出すとレブは黙ってしまう。フジタカも私達を見ているが何も言わない。
「お前達、話している場合ではないぞ」
そこにトーロがずかずかと近寄ってきた。どうして、と首を傾げて私達はファーリャの方から幾つも動く灯りが近付いている事に気が付いた。
「人目は無かったが、村の近くで騒ぎ過ぎた」
トーロが舌打ちをしてマスラガルトの死体やスパルトイの残骸を見渡す。そうか、ワイバーンの火やレブと私の雷は暗闇にこそ目立つ。誰かが村の中で見えて気付いたんだ。
「村の中でも俺達、目立ったもんな」
嫌味のつもりで言ったんじゃないだろうけどフジタカをライさんが睨む。誰も責めるつもりでは言っていない。
「フジタカのナイフでこの血生臭いのを消すのも無理だしなぁ」
「説明は私の方でします」
チコが肩を落とし、カルディナさんが眼鏡の位置を直す。そうしている間に灯り達はどんどんこちらに近付いてきていた。
話の筋書きとしては、宿に戻る筈の契約者が戻らずに広場を最後にして姿を消した。それからしばらく経つと村の外で爆発や雷鳴が閃く。そしてファーリャの男達を集めて様子を見に来た、ってところかな……。




