任せきりにしないで。
「また消えた!」
「近くにいるのか、あの親父……!」
フジタカも辺りを警戒している。周りに他に人影なんて無い。かと言って、これ以上ロルダンに力を詰め込めるとは考えにくい。
だとすれば、突然消える能力を持つ何者か。フジタカのお父さん……ロボが近くで様子を見ていたとしか思えない。物を消せる力があるなら、気配も同じ様に消せても不思議はない。
「探してる暇なんてねーからな!」
「分かってる……よぉっ!」
チコもサラマンデルを呼んで見せたが歯が立たない。痛みも恐れもを感じずに、向かってきたスパルトイの伸びた腕に貫かれてしまう。フジタカはチコのサラマンデルを囮にスパルトイ一体の頭を横振りの一撃でなんとか切り落とした。
「レブは……」
上空を見上げてレブの姿を探す。すると黒い影が二つ、夜空を滑り激突し合っていた。
レブはまだワイバーンと戦っていた。空を翔るだけあって飛竜の目はレブの拳を捉えている様で攻撃がすんでのところで当たっていない。
「ブワァッ!」
「あぁっ!」
聞こえたのはレブの声ではないが押さえ切れなかった。それが聞こえた直後に空が明るくなる。ワイバーンの吐き出した炎がレブを直撃していたのが見えたからだ。
まだワイバーンは止まらない。炎が止んで尚も空中に留まるレブをその発達した足で蹴落とした。落下するレブの姿にサッと血の気が引いていく。
「ふんっ!」
しかしレブは翼を大きく広げて体勢を立て直す。それはワイバーンにも予想できていなかったのか、レブの姿を見て大きくその長い首を引き戻した。
「流石に空では早いが……!」
急上昇したレブから逃れようとワイバーンへ背を向ける。速度を上げるには振り返ってはいられまい。ただし、それは選択肢の中ではあまり得策ではない。
「せぇぇぇいっ!」
「グウェェェ!」
飛び上がり、振り下ろされたレブの踵が今度はワイバーンの背を叩く。息を詰まらせたのか飛竜はぐったりと力が抜けたまま落ちてくる。
ワイバーンは長時間飛ぶに適した体の造りだとは思うが、戦いに向いているかは別だ。無論、先程の炎も魔法ではなく自身の体力から生まれる物だから戦闘力は人間や鳥の非では無い。
ただし武力も兼ね備えた竜人を正面から相手にしたらどうか。最初は不利だと思ってしまったが、レブはワイバーンの判断よりも迅速に動いて追い付いてしまう。そこが決め手だった。
「グ、エ……!」
頭から地面に叩き付けられて尚もワイバーンは生きていた。しかし回復はできていない様で、身動きが思う様に取れていないらしい。
その飛竜の頭を着地したレブが掴む。
「はぁっ!」
「う……!」
レブの手から光の矢が走り、ワイバーンの頭を貫いた。光は地平線近くまで伸びて私は胸を押さえる。レブの魔法がワイバーンをなんとか仕留めてくれた。
「おい!」
「え?」
私はレブばかり見ていた。そう、自分のすぐ近くまでマスラガルトが近付いていた事にも気付かずに。声の方を向いた時には、もうトカゲの戦士は私に向かって跳んでいた。
その跳躍力は人間の数倍。一つ跳べば二階建ての家屋の屋根には上れるだろう。だから気付かなかったなんて、ただの言い訳。
「くぅ……!」
「トーロ!」
腕で自分を庇っても、勢いの乗った剣なら腕ごと両断する。理性的に考えても、本能が反射的に身を強張らせた。
しかし私に剣が届く前に間に割って入ったトーロが手斧で守ってくれる。両手を交差させて二本の手斧で相手の剣を挟んでいた。
「戦えんのなら下がっていろ!」
マスラガルトは竜ではない。だが、その輝かしい鱗の下はしなやかな筋肉が詰まっている。会話するだけの知能が無い分、力任せに戦わせれば並の獣人では押し負ける。
それでもトーロは並の獣人ではない。だからこそ力を拮抗させて歯を食い縛っている。
「ううん、ごめん!」
足を竦めている場合ではない。トーロの脇をすり抜けてマスラガルトの方へ跳び込む。
「トーロ、放して!あと離れて!」
「くっ……!」
片手対両手でも苦戦していたトーロが相手の剣先を自分から逃して離れる。トーロまで巻き込めないから、自分でやるしかない。
「貫い、てぇ!」
どうせやるなら効果的な場所を。そんな贅沢を言っていられる状況じゃないけれど、だったらせめて全力で!
「フシュェエァァァァァァ!」
マスラガルトの左手首を掴んで私は魔法を発動させた。咄嗟に、だけど魔力を注ぎこめるだけ詰め込んで。全身を光らせたマスラガルトが悲鳴と共にぶすぶすと焦げ臭い煙を立ち上らせる。剣はすでに左手から落ちていた。




