勉強会の終わり。
「そして私はティラから以前聞いていた異界の門に向かった。……すると、私はオリソンティ・エラに来ていた」
端折られているとは思うけど、それがティラドルさんとの出会いから、私の召喚までのレブ。
「そのまま話を聞いていると、どうでもいいティラのアラサーテ捜索旅行記の話を聞かされるぞ。……いや、ティラ創作旅行記、の方が正しいかもしれんがな」
「言い過ぎだよ、レブ……!」
言葉遊びをするなんて珍しいけど、今のは流石に……。
「アラサーテ様、今のネタは頂いても?」
「構わん」
「おい」
って、思わず声が出ちゃった。意に介してないし。
「……お嬢様。我からお伝えできる部分はここまでです。あとは……」
「はい。ありがとうございました」
知りたかった事は全部じゃないけどいっぱい聞けたと思う。彼の住む世界で、何をして生きていたのか。予想通りだった部分もあるし、人の目には別の景色が映っていたんだなぁ。
「……ティラ」
早く帰りたそうにしていたレブは扉に向かって歩き出していたが、唐突に足を止める。
「はっ」
「確かにお前はかなりウザい」
「ぐっ……」
ウザい、って表現気に入ったんだね。あまり良くない傾向だと思うけど。
「だが、言った通りだったと思う部分も少なからず有る」
「は……?」
どこ、かな。結果的に平和の為に尽力したのは事実、ってことかな。
「……戻るぞ」
「待ってよ。じゃ、ティラドルさんもまた」
レブの言った意味をティラドルさんも少し分かっていない様だったが、レブは言いたい事だけ言って研究室を出た。私も続いて出ると、真っ直ぐに部屋へと戻ってしまう。
「……あのさ、怒ってる?」
「いや」
レブは椅子、私はベッドに腰掛け向かい合う。レブの私を見る目に表情は無い。本当に気にしているわけではないようだった。
「レブの話、聞いたよ。前よりちょっとだけ詳しく」
「そうか」
レブの尻尾が少しだけ揺れた。
「……聞いても良いか」
「どうぞ」
「何を聞いたかまでは知らない。だが……」
レブは少し溜めてから口を開く。
「貴様は私が、怖いか?」
レブが自分の胸に手を当てて私を見上げる。
「………」
どんな質問をされるだろうと思った。だけどあまりに予想外、というか突拍子もなくて目を丸くしてしまった。
「お、おい……聞いているのか!」
「あ、うん……。うん……」
そうだ、答えないと。考えるのは後で。
「怖くはないよ。頼りにしているし」
「……そうか」
パタパタ揺れていたレブの尻尾が椅子の脚を撫でる様にして落ち着いた。
「貴様がティラに余計な事を吹き込まれて……私を恐れるようになったら、と思ってな」
……恐れる、か。確かに今日聞いた限りでもレブの力は恐るべき力なのかもしれない。
「レブ、私からも良い?」
「あぁ」
レブの承諾に、私も少し勇気を持って。
「ティラドルさんは……私が憎くないのかな」
「何故、ティラが貴様を憎む必要がある」
私の目の前にいる彼はアラサーテ・レブ・マフシュゴイという紫竜。その事実を再認識する事になったからだ。
「私、レブをそんな体にしちゃった。元の世界では凄くて、見た目だって……」
「……ティラに何か言われたか」
私はすぐに首を横に振った。
「違う。だけどレブは……」
「重要なのは、本人の気持ちだ。私が気にしていないのなら、アイツが怒る理由には成り得ぬ」
最初に会った時のティラドルさんは正に、私を殺す気でいた。それがどうして今では優しくレブの話をしてくれるまでになっているかと言うと、本人が止めてくれているからだ。
「レブ……」
「謝る必要はない。貴様は貴様の速度で歩けば良いのだ」
レブの優しさが少し、辛い。焦っても仕方がないと分かっているから余計に。
「……それに、だ」
「え?」
レブが窓の外を見やる。
「多少貴様へ思う部分があっても問題ない。私がアイツの掌の上にいてやっている今の段階では、な」
「……それって、どういう事?」
私はベッドから身を乗り出して聞いてみる。
「………ふん」
レブは一度、鼻を鳴らして私を横目で見たきり窓へ視線を戻してしまう。この前のフジタカとの一件と同じ様に、答えてはくれなかった。




