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当事者でさえなければ。

 「儂は殺したくはない。だが、次にベルナルドは皆様を……いいえ、お嬢さん、貴方を殺しにくる」

 ロルダンは私を見たが、その目線を遮るようにレブが左の翼を広げた。

 「自力では私を殺せぬからか」

 「彼女を殺す方が人間にとっては容易い。召喚士を殺すのは、インヴィタドを殺すも同義ですからな」

 翼を退かそうにもびくともしない。それどころか翼だけで後ろに下げられて二人がどんな顔で話しているかすらも見えなくされてしまった。

 「ならばお前を殺す方が私には容易いとも取れるな」

 「そんな事はなさいませんよ。かの別世界で武王と名を馳せた貴方が、カドモスと会わずに決着をつけるなど。今までの貴方を成した誇りが許すまい」

 翼がゆっくりと畳まれていく。ロルダンは微笑みを浮かべてレブの顔を窺っていた。

 「あの男を呼び出せ。私にとってあの餓鬼は障害にもならない」

 「今の貴方様では、私がけしかけたカドモスに勝てますまい?」

 私を狙おうとも、ベルナルドは相手にならないとレブは断じた。しかしロルダンの一言は、私にとっても耳を疑う一言だった。

 レブが……勝てない相手。今までは心のどこかでレブならどうにかしてくれると思っていた部分があった。私の体に負荷が掛かっても、レブを本気の状態にできれば無敵だと。

 それが揺らぐ。今まで考えた事も無かった一言に私はレブの腕に手を添えた。

 「………」

 ロルダンに対して返事をしない。否定、してくれない。

 「レブ……?」

 「それが事実と仮定して、奴が……」

 彼の口から出た言葉に私は手を離してしまった。それには反応したのか、一度区切って私の方を見る。

 「……奴が、お前の言う事を聞くとは思わないが」

 しかしそのまま、レブはロルダンに目線を戻してしまう。ロルダンも私を見たが、レブが足を踏み鳴らすと二人で腹を探る様に見合った。

 「ええ。それもまた、事実。儂と彼は利害が一致しているからこの境界が壊れた世界で共闘しているだけに過ぎませぬ」

 困っている、と言いたげに眉根に皺を寄せて指で揉み解すとロルダンは飴を噛み砕いた。

 「彼は若干の欲求不満で昂っている。儂らでさえ抑え切れなくなればきっと相まみえる」

 「抑え付ける必要がどこにある」

 ロルダンは笑った。

 「言ったばかりです。儂らは貴方様を迎え入れたい。そして……今の貴方様では勝てない」

 断言するロルダンに私は詰め寄ろうとしたが、今度はレブが腕を伸ばして止める。

 「人手不足はどこも同じだな」

 「こちらも三人減らされ、一人を使い物にならなくされました故に」

 ふむ、と唸りレブは私を止める腕を退かした。

 「ですが、今も気持ちは変わっておりません。だからこそ、こうして無防備な姿でこちらの情報を皆様の前へと晒している。不要な者達へも含めてね」

 ライさんは片時も剣の柄から手を離していなかった。フジタカも、トーロも敵意を向けている中でここまで堂々としているのは素直に称賛できる。……彼もまた、力を持っていると自負しているから言えるのだろう。

 「ロボの息子からは断られてしまいました。しかし、貴方様は……」

 「断る」

 「………」

 レブの一声でロルダンの表情が固まった。数秒、行き場を失くした言葉を溶かす様に口をパクパクと動かした後、前のめりに曲げていた腰が伸びる。

 「理由を、お聞かせ願えますか」

 「我が友、コレオ・コントラトを殺した者の所属する組織に与する理由は無い。まして、誇り高きもう一人の友をもかどわかした」

 ココの名前を出した事で、ライさんが握っていた剣から力を抜けていくのが見えた。レブの背を見る目は揺れている。

 「誤解だ。カドモスは儂らを理解した上で協力してくれているのだから」

 「………」

 レブの顔色が変わる。

 「それに、契約者の殺害も同じだ。儂らフエンテはベルトラン達の暴挙は是としていない」

 「ふざけるなぁぁぁぁ!」

 レブの横を風が抜ける。怒号と共にライさんが剣を振り上げ、ロルダンに飛び掛かる。

 一拍早くロルダンが岩から跳び退く。剣は勢いを乗せて岩を叩き割ってしまった。

 「ふーっ!ふーっ……!」

 肩で息をして尚もライさんは眼前のロルダンを見据える。

 「だったらココはどうして死ななくてはならなかった!殺した側がどの口で物を言う!」

 「言葉選びを失敗しましたか。途中までは良かったのですが」

 どこを見ていたら途中まで、なんて言えるのだろう。しかもこれまでずっと喋っていたのは自分だろうに、やけに他人事として捉えている。

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