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待ち合わせるなら。

 謝るライさんを見て二人はあとずさった。

 「こっちも召喚士なんだから一緒だと思ってたんでね。これからも頑張ってくだせぇ」

 「じゃ、俺達はこれで」

 半ば逃げる様にして二人は行ってしまった。ライさんもその背中を黙って見送る。

 「こっちの方に向かってた……だっけ」

 「うむ」

 レブが頷いて空を見上げる。

 相手はビアヘロではなく召喚士だ。だったらこの村の結界も突破して、人の波に紛れる事も容易い。だからこそ余計にタチが悪い。

 「……フジタカ」

 「なんだよ」

 「フジタカは……具合、悪くないの?」

 今更聞く事でも無かった。だけどフジタカがビアヘロだと言うのなら、人の集落に用意されている結界が作用して……。

 「どうしたんだよ急に。腹は減ったかな?」

 ……うん、確認するまでもない。お腹を擦るフジタカは健康そのものだった。

 「ううん、なんでも。私もお腹空いてきちゃった」

 どうやらフジタカには結界が作用していないらしい。召喚陣を通さずにこの世界にやって来たビアヘロが結界に近付けば体調を崩す。具体的には生き物ならば頭痛や目眩、吐き気を催すと言った具合だ。鉱物は酸化が早くなる。フジタカに効かないのはやっぱり、フエンテに細工されて召喚されたからって事かな。

 「空腹を満たすよりも、先に済ませる事がある」

 声を低くしてライさんが歩き出した。最初にその背中を追い掛けたのはウーゴさん。

 「どこに行こうと言うんだ、ライ!」

 「決まっている。この村に向かっていたのなら、俺達が契約の儀式をしている間に到着していただろう」

 「わざわざ姿を現すわけないじゃないか!」

 ウーゴさんの言う通り。明らかに敵対しているライさんやレブを前にしてどうして顔を出せようか。この村に来たと知れば炙り出すなんて言いかねない相手を前に軽率過ぎる。

 「こちらの動きは筒抜けなのにな……!」

 ライさんは落ち着きなく同じ場所を右往左往して唸っている。じっとしていられないんだ、あの召喚士……ロルダンがいるかもしれないから。

 契約者と行動する私達は常に目立つ。だからこそ相手の目をトロノから遠ざけられる。加えて大きくなったレブの効果もファーリャに着いて存分に感じ取れた。

 最初はトロノに私達がいない、と主張できればそれで良かった。だけど私達の方からフエンテに用事があるとしたら別だ。こちらがフエンテを遠ざける存在になってしまっては目的が果たせない。

 フジタカのお父さんがフエンテと行動しているし、ライさんの考え方だって分からないではない。だけどまさか中立であり続けると思っていたレブにも因縁を作っていたなんて。向こうが私とレブに目を付けた理由も本当はアルパの時点であったのかも。

 「そう焦らずとも、良いのでは?」

 私達の中へ放り込まれたその声に、全員が動きを止めた。

 「探し人なら、ここにおりますゆえに」

 ライさんが剣を抜くとゆっくりとした挙動で目の前に現れた老人、ロルダンは広場に足を踏み入れて両手を上げた。

 「お前ぇ……!」

 「無抵抗の人間を手に掛ける程、畜生に身を堕としてはいない様で。少し安心しました」

 唸っていたライさんが大きな声で咆哮を上げる。それこそ、この村中に響き渡ったのではないかと思うくらいに。

 「ライ……!」

 「……っこのぉぉぉ!」

 ウーゴさんが前に立つ事でライさんは踏み止まり、剣をそのまま地面に振り下ろして深々と切っ先を埋める。それだけでも周りの人は続々と集まって来た。

 「レブ、動ける?」

 「当たり前だ」

 ただ話し掛けてきた老人に村の中心で突然斬り伏せるなんて光景、起こさせない。私からの質問にレブはライさんを止めるか、ロルダンを倒すか、どちらに解釈したかは分からない。

 だけどこちらからの指示があるまでは動かさない。それは目配せで伝わっている。

 「困った御仁だ。内緒話を興じようと言うのに、人を集めてしまった」

 ベルトランやベルナルドと同じだ、どうしてこの人達は自分の立場を上からにしてでないと話をできないんだ。だから鼻持ちならない気にさせられる。

 「お前達は自分の存在を秘匿したがる。ならばこの状況、好ましくあるまい」

 「その通り。儂の様な老いぼれは、注目を浴びるには歳を重ね過ぎた」

 その話題は止めた方が良い。

 「ならば目撃者全員の目と口でも潰すか」

 「それもまた一つ、有効なのでしょう」

 ロルダンが小脇に下げていた巾着を持ち上げる。私達が見える高さまで上げると、今度は軽く浮かす様に放って、中身を揺らす。何か小さく、乾いた物が袋の中に詰まっている音が聞こえた。

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