決め付ければ、その先を考えなくて良かった。
「……ばいばいっ」
「あぁ、ばいばい」
しかし、女の子の方は一度立ち止まり、振り返るとライさんに手を振った。ライさんも振り返してやると、今度こそ女の子も子ども達に合流して遊び始める。
「……さぁ、後は俺とウーゴが引き受ける」
こちらに向き直ったライさんから表情が消えていた。ウーゴさんも軽く頭を下げるだけ。
「でも、さっき休憩に入ったばかりじゃないですか」
フジタカやトーロと子どもの扱いについて話していたのなんて、ほんの数分だ。食事をして戻ったにしても早い。もしかして食事も喉を通らないとか……。
「いいんだ」
ライさんは首を横に振ってその優雅な鬣を揺らした。
「契約者の為に働く。今の俺にはそれぐらいしか能が無いのだからな」
「そんな言い方……っ!」
自分を卑下する様な発言にフジタカが前に出る。しかし、契約者の儀式を待つ親子達がこちらを気にし出したのでフジタカの方が自制してくれた。
「……止めてくださいよ、そんな風に自分を型に当てはめるなんて」
「俺は事実だと思っている。快く思わないなら、すまないがね」
言ってライさんは私達に背を向けて列の整理に戻った。その背中を見て、思った事がある。
ライさんは私達を利用する事に対して、引け目は感じないと言った。レブも邪魔さえしなければ、とだけ返事をしている。
だけど実際のライさんときたらどうだ。……引け目も負い目も感じて私達を避けている。堂々としている様で、どこか皆を遠ざけていた。私達に笑顔を見せてくれる事は減ったけど、決して冷たく接する様になったわけでもない。
小屋にいる二人の方がそういう振る舞いは得意そうだから見抜けたんだ。それも、トーロの言っていた経験のおかげなのかな。
結局ライさんの方が儀式に精通しているからと親御さんへカンポ地方の近況などと言った世間話は一人舞台になってしまった。傍に召喚士がいるからと安心らしく、獣人のインヴィタド相手でも結構積極的に話をしてくれていた。特に若い奥さんにライさんは人気だったと思う。ウーゴさんは逆に、父親の語りを聞いて相槌を打って聞き役に徹していた。
私とチコ、フジタカはどちらかと言うと歩き回る子どもを列に戻してあげる役回りだった。小さいのにすばしっこくてチコもフジタカも振り回されっぱなしだった。
セルヴァの時とは逆に、契約の儀式から先に行っていたが当然村の一大行事は選定試験の方だった。契約者に力を与えられて、日々鍛錬を重ねてきた召喚士志望者がファーリャでは五人、名乗りを上げて試験に挑戦した。
そこではニクス様がカルディナさん直筆召喚陣を手渡して試験が始まる。その光景を私が見守る側だったのはなんだか感慨深い。
しかし試験はまさかの合格者が一人も現れなかった。最初こそ沸き立っていた村の男衆も流れに変化が起きないのを察すると段々と応援の声が野次に変わってくる。それを止めてほしいと頼むのが受験者の親と、私達だった。
「合格者がいないなんて事もあるんだ……」
「盆地で商売をして利益を上げてきた人間の子で、この世界の声を聞ける者は少ないという事だろう」
失意に肩を落として帰る選定試験の受験者の後姿を見送りながらフジタカが呟く。レブも見ている先は同じでも容赦はなかった。
「それは子どものせいじゃなくね?」
「あぁ。子に責任は無い。だが、子をどんなモノと成すか方向付けるのは周囲の環境だ」
カルディナさんとトーロがニクス様と次の目的地について話している中、レブ達はまだ帰っていく村人達を眺めていた。
「田舎者の方が強い、って事?」
「頭の悪い表現だがこの世界においては正しいかもな」
レブは私に頷くけど、私は素直に首を縦に振りたくない。察してかレブは腕を組んで私の方へ体を向ける。
「召喚士にならずともこの村で生きていく術はあると村の子らは知っている」
「だから召喚士を夢見ない?」
認めたくないけど、カンポでもそんな話を聞いたっけ。なりたい気持ち、必要に迫られる気持ちの差が地方毎に異なっている。召喚士はなりたい者にしかなれないから、ファーリャで召喚陣は新しい可能性に反応しなかった、か。
セルヴァでは選定試験の受験者も多かった。受ける人数の分だけ合格者も増えたし、契約の儀式でも来てもらえる度に魔力線を開いてもらえる子も出てきていた。それが当たり前ではないと知ったのは随分後になってから。
「強いインヴィタドを出せる召喚士!……を、雇える金があるなら自分で呼ぶ必要は無いもんな」




