一撃必砕。
チコもライさんとは距離を置いていた。フジタカと繋がっていないのを知っているからか、下手に話さないみたい。
「ファーリャでは選定試験ってやるのか?」
「迷ってはいたみたいだけどやるみたいだよ。カルディナさんが言ってたし」
昨夜、寝る前に聞いてみたらブラス所長は迷っていたそうだ。だけどロカに続いてファーリャでも選定試験を行わないわけにはいかないと判断された。
契約者が才能を見出した召喚士のタマゴをフエンテ側に引き込まれる前に、こちらで押さえておくという考え方からだ。フエンテがそんな真似をしているかは定かではないが、幸いオリソンティ・エラの人々は契約者を信じている。突然現れた召喚士よりは契約者が言う事の方を優先してくれるだろう。
ニクス様が数か月トロノに留まっていたのもライさんの根回しだと思う、とカルディナさんは言っていた。私達の試験を待つ為、そしてフエンテがどこから現れるか分からないから。それらしい理由を並べて不安を煽るなら、方法は幾つも転がっていたし。
「じゃあもっと時間掛かるんだな」
チコはうんざりした様に天を仰いで口を開ける。選定試験は行うけど私達の旅はすぐにトロノへは向かない。合格者が出ても、その人達は自力で馬車でも徒歩でも用いてトロノ支所かアスール支所に向かってもらう事になる。
私達がセルヴァからトロノへニクス様やカルディナさんと一緒に行けたのは、あとは帰るだけだったかららしい。となれば、私達も最後には誰か新しい召喚士見習いの人と一緒にトロノへ向かう事になるのかも。
「……じゃ、そろそろ代わって来ようかな。列の整理」
フジタカが腰を曲げて体の柔軟をしながら前へ出る。登山道の一件以降でライさんと一番話をしているのは多分フジタカだ。口喧嘩をしたから余計に意識しているらしい。
「あ、じゃあ私達も行こうよ。ライさん、またご飯食べる時間無かったみたいだし」
「ならば、それはどうする」
レブが指を差した先ではスライムがプルプルと揺れていた。私は自分の出した物を見下ろして唸る。
核に注いだ魔力の分だけスライムはそこに在り続ける。放置すればそのうち核が機能を停止し、水溜りを作って自壊する筈だ。
だけど私にはその持続時間を注入した魔力の分量から推察できない。
「えっと……とりあえず、この場でぐるぐる動かしておけば勝手に止まるかな?」
召喚陣を破いて強制送還するのも手だけど、チコの召喚陣は使い回す用に縫われた物だ、勝手には破けない。だったら自然に消滅してもらうまで留まってもらおうと思ったけど……どうするのが効率的かな。チコに聞いてみよう。一番は跳ねさせた方が良いとか?
「もう用事は済んだのだな」
「今回は試しに出しただけだしね」
レブが前へ一歩進む。
「ならば」
「あっ」
ピシッ、とレブが尻尾を一振りするだけで先端がスライムの核を鞭打つ様に破壊した。しかも、共有を切っていなかったから私も断線した感覚に胸を押さえる。大した痛みでは無かったのは、そもそも魔力をほとんど籠めていなかったからかな。
「む、共有を切っていなければ魔力を吸われるぞ。あの程度の核なら勝手に吸い出しはしまいが」
「そ、そうだね……」
呼び出してからも覚える事は多いな。スライムやゴーレムの核は元の世界には幾らでもある存在だ。言ってしまえば雑草を一本引き抜くぐらいの気持ちで皆使っている。
「あー……初めて出したスライムが……」
だけど私が初めて呼び出したスライムはあっさりと弾け飛んだ。レブは尻尾を地面に擦り付けて粘液を拭いている。
「貴様の初めてはこの私だ。軟弱なぶよぶよに譲るつもりはない」
「そういう事じゃなくて!もう、ぶっ壊す事ないじゃん!」
「だから声が大きい」
私はとりあえず口を押さえてチコ達に続いてライさんとウーゴさんから整理の順番を引き継ぐ。レブはその場に居るだけで威圧感を放っていたから小屋の中でトーロと交代させた。フジタカと一緒になれてトーロは楽しそうだった。……中にカルディナさんもいるとは言え、ニクス様とレブが揃って立っているなんて子どもが泣きそう。
予想は的中し、赤ちゃんはともかく、小さい女の子の泣き声が聞こえてきた時は中に入ろうか悩んだ。泣かせたのは十中八九レブだろうからと。ニクス様なら怖がられても泣き出しはしない……と、思うし。こういうのをフジタカが言う見た目で損する、ってやつなんじゃないかな。
「フジタカって子どもとか得意そうだよね」
「うーん、人間相手にはどうかなぁ」




