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失敗し続けても、続けていたから辿り着く。

                      第三十二章



 自分の中身をほんの少しだけ切り出して、手を作る。それを異なる世界と繋がる門へとそっと通し、繋がった先で会えたモノを通した手で引き摺りだす。

 「あ……!」

 通行料として支払った魔力の量によって釣れる対象も変わってくる。相手が高位の存在、例えば鉱物ではなく生物になればちょっとやそっとの魔力量ではこちらの召喚には応じない。

 「おー」

 フジタカが声を洩らす横で私は現れた軟体を見下ろして確かな手応えを感じた。

 広場の脇で私はチコとレブ、フジタカと一緒に昨日レブが言っていた事を早速試していた。自分の中にある魔力の栓を開け閉めして行う召喚術の基礎、スライムの召喚。

 遂に私は召喚士の基本中の基本を初めて成した。浄戒召喚士には既になっていたと言うのに。

 「や、やったぁ!」

 「ザナ……静かに」

 チコが口の前に人差し指を当てるので慌てて口を押える。広場の横にある管理小屋を見るが、中からの反応はない。

 あの中ではニクス様とカルディナさんが村の子ども達を相手に契約の儀式を行っている。召喚術が異世界に手を突っ込む行為なら、契約者の契約はヒトを相手に魔力の手を挿し込む行為に見えた。そう考えるとオリソンティ・エラの人々と契約者は意外に近い存在なのかな。

 「ねぇレブ!見て見て!ほら、ぷるんってしてる!しかも私の思う通りに動いてくれる!」

 「……あぁ、見事だ」

 声と召喚陣の作動に反応したのか、レブが小屋からこちらを向いた。口では一応の祝辞をくれるけど、顔にはそんなスライム見飽きているだろうと書いてあった。

 「私、召喚できたよ!レブの言ってくれた通りに!」

 「うむ……。して、声が大きい」

 「あ……」

 今言われたばかりだった。だけどレブが指摘してくれなかったら、きっと気付くのはトロノに戻る時まで先送りされていたと思う。

 見方を変えればベルナルドから意図せず与えられた力かもしれない。だけどもうこれは私だけの力だ。雷を出せるのだってレブの力あってこそ。考えて落ち込むよりももっと使える様にしないと。

 「上手いもんだな、俺の召喚陣なのに」

 チコが地面に敷いた召喚陣を描いたローブを拾って手で砂を払う。スライムを出せる召喚陣を描いた事は自分でもあるけど今回はチコが用意していたものを借りた。

 人の召喚陣と自分の陣では手癖が異なる為、勝手も違ってくる。インクにも魔力を注ぎ込んだり、血液を一滴垂らして描く者もいるくらいだから自分で用意した方が良い結果は出やすい。召喚士選定試験はそういった要因をも突破して召喚できる才があるか見る試験だった。もっとも、カルディナさんが人の模範になる様な癖の無い、綺麗な召喚陣を描けるから試験監督をしていたのもある。

 「ずっと練習はしていたからな」

 レブの言う通り、私は彼を召喚してトロノに移ってすぐに召喚術の勉強はしていた。頭の中で思い描いていた事がずっとできていなかったのは、考え方が違っていたのではない。そこに至れるだけの力を身に付けられていなかったから……。

 ううん、それも違うのかな。持っていた力の大半をレブに渡していたから、か。レブと専属契約を結ぶ前からできていなかったという事は、その時点でもかなり繋がりが深かったって事で良いのかな。

 だけどそれももう終わり。出先で試せる範囲は限られているけど、自分の魔力がレブを維持しながらどの程度融通を利かせられるのか調べてみよう。

 「ありがとうチコ、召喚陣を貸してくれて」

 「貸すだけだし、いいって」

 チコも寒いのかローブを羽織って小屋の方を見る。

 「契約……時間掛かりそうだね」

 小屋の方を見ると行列がしばらく続いている。ざっと数えてもロカの倍に届くかどうかぐらい。手伝おうにも列の整理くらいしかできなかった。契約の儀式を代わるなんて私達にはできないし。

 「………」

 フジタカの視線の先には獅子獣人の男性がいる。気さくに村人達と話しては笑っているライさんはしっかり列の整理もこなしていた。おかげで私達はこうして端で召喚の練習もしていられた。

 「ああして見ると、前と変わらないんだけどな」

 「この時しか、前に戻れないとも言えるのだろうな」

 ライさんを見たフジタカの感想にレブが続く。この時とは、契約の儀式をしている時だ。

 ココの契約か……。私達は一度も見る機会はなかったけど、きっとライさんはウーゴさんと一緒に隣で見守っていたんだ。

 「……あれが素なんだよね、ライさんの」

 「今はどうだろうな……。無理して作り笑いしてるかもしれねーし」

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