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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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適齢期超過。

 「理由は分かっています。……我がアラサーテ様に、世継ぎの話をしたからです」

 レブの……ひいてはフジタカの言葉を借りると、本人からすればウザい、ってやつかな……。

 「アラサーテ様ももういい御歳です。結婚適齢期は少し過ぎておりますが……」

 ちょっと耳に痛い話だな……。話の中心は私じゃなくてレブ、って分かっているのに。

 「世の平和へ貢献する為に尽力されたアラサーテ様はもっと自分の幸せを考えても良い。そのための世継ぎ。……そうは思いませんか?結果的に、あの御方からは距離を置かれる様になってしまいましたが……」

 「そ、それは……」

 本当に、レブが世を憂いて平和にしたいって思っていたらね。仮に、以前聞いた話が今も生きているとしたら。肯定すべきか、否定すべきか返答に少し迷った。

 「ふん。下らんな」

 沈黙しそうになったところへ、別の声が響いた。聞き覚えのある声にティラドルさんは肩を跳ねさせる。

 研究室の扉を開けて入って来た声の主、レブは目付きを鋭くしていた。不機嫌なのは明白だったが、扉は静かに閉めるとゆっくりこちらへやって来る。

 「あ、アラサーテ様……!何故、こちらへ……?」

 「自分の召喚士の居場所に、呼び出されたインヴィタドである私が現れる。そこに理由は必要か」

 「いえ!滅相もございません!」

 ティラドルさんは立ち上がると、椅子をレブへ譲る。……近寄って来るレブから身を引いた様にも見えた。

 「まったく」

 着席したところで、私はレブの顔を見る。ティラドルさんが質問した内容はそれとして、私だって気になった。

 「出掛けたんじゃなかったの?」

 「ブドウを買って食べて戻った。そこで部屋を見たら貴様がいなかったから探したまでだ」

 召喚陣の魔力を辿ってまで、私を探したんだ。口には出さずに私は納得した。

 「貴様はここで何を聞いていた。途中から聞こえてきた内容から察するに、ティラの描いた空想話か」

 「く、空想……?あれが?」

 レブの発言にティラドルさんの方を見る。窓の横に立って、今にも羽ばたいて逃げそうだったが首を横に振る。

 「わ、我はアラサーテ様の武勲をお嬢様にお聞かせしていたのです!空想話など……」

 ふむ、なんて言ってレブが顎を撫でて値踏みする様にティラドルさんを横目で見る。

 「聞こえてきたのは私があの世界の平和に貢献した、だったか?それで世継ぎの話をしたら私がティラを避けた、と」

 「はい!」

 「間抜けめ」

 単語一つで押し黙らせる。椅子の上で立ち上がってもレブはティラドルさんと目線の高さが合わない。

 「私はただ、争っている連中が気に食わないから叩き潰しただけだ」

 「そ、そんな……!」

 ………。

 「で、では、赤竜に殺されかかった我を救ってくださったのは……」

 「そんな事があったのか?」

 やっぱり、と私の心の中から聞こえてきた。

 「もしかしてレブの通り道を邪魔してたのがその赤竜だった、とか……」

 倒れていたティラドルさんは視界に入ってもいなかったとか。

 「そうだな、その話の方が有り得る」

 「レブが言っちゃダメだよ、それ」

 私が指摘するのも遅かった。ティラドルさんの手からはすっかり力が入っていない。熱の入った語りに加わっていた手振りどころか、放って置くとそのまま肩からも抜け落ちそうな勢いで脱力してしまっている。

 平和を願って戦うという話も、思い返せば妙だ。レブは悪い人ではないけど、世界平和に尽力する程の利他的でもない。戦うとすれば世界中ではなく、自分か自分と親しい間柄を守る為だ。それが結果として世界を救っていた。……うん、この方が違和感はない。

 溜め息を洩らしたレブだったが、少し間を置いてあぁ、と口を再び開く。

 「一つだけ合っていた事があるぞ、ティラ」

 「そ、それは?」

 「私がお前を避けた理由は、確かに世継ぎの話をするお前が鬱陶しかったからだ」

 今度こそ、ティラドルさんの心が折れた様に見えた。大口を開けて呆然とする大人の竜人なんて見た事がない。

 「事ある毎に私に子どもがいると、嫁がいるとこんなに楽しいなどと説きおって。独身なのはお前も変わるまい」

 「そ、それは……」

 「私が嫌いなのはな、机上の空論を得意げに語るやつだ。実体験を伴わない話に説得力を感じない」

 ふと、ペルーダと戦った後にレブに叱られた事を思い出す。あの時、召喚士は正義のみを執行すると思っていた私に視野を広げろ、って言ってくれた。

 「悔しければ自分で恋人に出会ってから言うのだな。でなければ私の心を動かす事などできんぞ」

 「うぅ……」

 ずーっとレブの傍にいたんじゃ向こうの世界で出会いは……無かったよね、きっと。

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