視線の鎖。
私が聞いたところでレブは自分の世界に入り込んでしまう。でもレブの言っていた事はあながち間違いでもない。
こんなに大きくなったら、レブの食事も前と同じじゃ続かない、よね……?道中では皆で分け合って食べていた分を文句も言わずに食べてたけど。
「私は由々しき事態に陥ったのか……」
しかし本人はブドウの事しか考えていない。そうじゃなくて!
「とりあえず……五部屋、お願いします……」
カルディナさんは私達の事は諦めて話を進めてくれた。ニクス様を一人にはしておけないから、と一緒の部屋にあてがわれたのがトーロだった。
「………」
私はカルディナさんと同じ部屋。チコはウーゴさんと同じで、フジタカはレブと。一人部屋を使う事になったのはライさんだった。私とレブで様子を見に行ってもライさんは部屋のベッドに腰掛けて動かない。眠ってはいない様だった。
「あの、ライさん……」
「……何か、用事か?」
私が声を掛けるとゆっくり目を開ける。この数日、ライさんはほとんど誰とも話をしていない。ウーゴさんとでさえもだ。
「いえ。ただ、一応夕食は皆で摂ろうって話と、それまでは自由時間にして良いそうです」
「そうか」
ライさんは短い返事だけ寄越すと私達から視線を外した。
「……まだ、伝える事でも?」
「……いいえ、すみません。では、またあとで」
私はそれ以上、ライさんと会話を続けられなくて部屋の扉を閉めた。レブも無言で私についてくる。
村に到着すれば変わるかも、と思っても特に目ぼしい変化は起きてくれなかった。宿に入る前もずっと黙っていたし、部屋で荷物を降ろしてからも変わらない。外に気晴らしにでも、と誘う隙すら見せてはくれなかった。
「私達は外に行こうか」
こっちはこっちで時間を使うしかない。フジタカはチコとウーゴさんの部屋に行ったみたいだし、カルディナさんはニクス様とこの村での契約の儀式の打ち合わせを始めると言っていた。私も契約者の護衛になれたのだから、話し合いにも参加したいと言ったがそれは断られた。
「休むと思っていたが」
見下ろされながら私も頷いた。
「そう思ったんだけど、なんか落ち着かなくて。体を動かしたい気分だと思ったんだ」
疲れていないわけじゃない。だけど自然と肉体はもっと運動したいと主張していた。もしかして今日は昨日までよりも体力を使わない内にファーリャまで着けたからかな。
レブは特に何も言わないで私の横を歩いている。その一歩一歩の重みが前とは全く違う。外に出て、集まる視線でもそれは何となく伝わってきた。
「おい、あの子……」
「すっげーな、アレ……。まさか竜か?」
「いやいや。せいぜいトカゲ……」
「トカゲになんで翼があるってんだよ」
「あ、そっか。ってことは……?」
装いから見て、こっちを見て何か話をしている人達もファーリャに定住しているとは思えない。そもそもこの近くには何件か宿屋が並立しているし、たぶん別の宿を利用している宿泊客の数人だと思う。
「この私を見て未だにトカゲなどと同じ扱いにする不逞がいるとはな」
「見た事ない人からしたら分かんないよ。気にしないの」
気にするな、とは言ったものの相手からの視線にはその日の中で慣れる事は無かった。だって、どこに行っても珍しがっている視線を向けられるんだもの。
ニクス様だって十分に人目を引く。だけど、注目されているのは私ではなくニクス様だと思えばそれで済んでいた。
向いた注目がレブを捉えた瞬間、私は他人事ではいられなくなった。前からトロノをうろついている時もレブを見て気にする人はいた。だけど大抵が可愛いね、小さいね、生意気だね、と目線は下がっている。
それが横や、上向きになっただけで人が抱く感情は大きく異なってくる。レブに対して向けられる感情。それは決して羨望だけではなかった。
あの子が隣の竜人を召喚したのか。そんな声が歩くと聞こえてくる。自分で言わずともレブと私を関連付けて話題にされていた。
前から私の隣にレブはいたのに。
「………」
「おい、どこへ行く」
自然と速足になって、レブの声が後ろから聞こえる。周りが急にレブを見る様になった事に私の頭が追い付いていない。つい昨日まではレブの事をよく知っている人達がいたから、他に考えないといけない事が山ほどあったから、気にしないでいられただけ。
「気分が優れないのなら部屋へ戻るべきだ」
「そうだけどさ……」
良い気分じゃない。それは体調の事は指していなかった。




