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肩透かし、見えた展望。

 「昨日は……すいませんでした。俺、わざと喧嘩を売る様な言い方しちゃいました」

 「………」

 頭を下げるフジタカにライさんも振り上げていた手を静かに下ろす。自分の話をされていたのに謝られるなんて、思っていなかったみたい。

 「知ってしまったのだろう。俺が……契約者に同行した理由を」

 「それだけじゃないです。俺達がフエンテを呼び寄せやすいからというのも、全部」

 フジタカに言われてライさんは俯いて弱々しく笑う。

 「くっくっく……。……はぁ……。バレる時は本当にあっさりしたものだな。準備だって随分苦労して進めたんだが」

 「目標を目の前にして、焦るのも分かりますけどね」

 静かな調子で話し続ける二人に誰も口を挟まない。こんな時、フジタカは人の踏み込まれたくない領分を上手く避けながら話してくれる。

 「……俺をどうするつもりだ」

 「食欲があるならご飯、無いならこのまま次の休憩まで一緒に歩いてもらいます」

 「は……?」

 今日はピエドゥラを越える。下山ができたら街道に出れば野営地があるとカルディナさんが言っていた。目標はそこまで皆で行く事。

 皆の中には当然、ライさんも入っている。

 「……まだ俺を連れて行こうと言うのか?」

 「勝手に帰ろうって言うのかよ。……そうはいかない」

 そこでレブが一歩前に出る。ライさんは立ち上がると、ふらつきながらもレブの前に立って彼を見下ろした。

 「……また俺は貴方達を利用する。そこに引け目なんて、感じないぞ」

 「邪魔さえしなければ構わない。好きにすればいい」

 誰にも止められたり、抵抗を示されないのにライさんは居心地を悪そうに私達を見回した。いや、反発がないから悪いのかな。

 「俺は……」

 「お前がそこの契約者を守ると誓えるのならば文句はない。他に誰を処刑しようとな」

 レブの表現はあまりにも物騒だけど、私達はそれで納得した。

 「私達は今までのライさんを信じてます。だからライさんもニクス様や私達に協力してください。……これからも」

 私の相棒の言葉が足りないのならこちらで補うだけだ。レブはそこまでせずとも、と言いたげな様子で鼻を鳴らして私の後ろに下がる。

 「俺達はこの人達の前でなら……小細工をせずとも良かったんだよ、ライ」

 「…………」

 ウーゴさんに言われてライさんはしばらく黙ったままだった。

 「朝食は、要らない。待たせてしまった様だし先を急ごう」

 ライさんは鬣を梳いて形だけ整えると、すぐに岩壁に立て掛けていた自分の剣を腰に提げて歩き出した。私達も火の消火だけ確認するとピエドゥラを下り始める。

 やっぱり、ライさんにそんな話を起きて早々に聞いてもらっても効果はすぐに現れない。今日までそういう生き方をしてきた相手に急に方向転換を促しても実行はできないと私だって思う。

 ただしライさんにはそれ以前があるんだ。例え今日までの笑顔が嘘で塗り固められた愛想笑いだったとしても、いつかはきっとまた、昔の様に心の底から笑ってくれる日が来る。来てほしい。

 ココへの気持ちを嘘にしない為にも気を張っている。それで気を保たせているのが今のライさんだ。私達の気持ちを伝えても、今は届いていない。だから私達は傍にいながら、前へ進むだけ。

 「本当に大きくなったよね、レブ……」

 敢えてライさんには深く触れない話題に変えるとしたら、と隣を見る。昨日も思ってはいたけど改めて。自分よりも大きくなったレブがこうしてずんずん歩いているのを見ていると壮観というか……。

 「まだ半端な目線だが、私にとっては随分とできる事が増えた。それに、この姿であれば犬ころも……」

 「あだっ!おいデブ!狭いんだからそのハネどうにかしろよ!邪魔だっつの!」

 得意げに身を振ったレブの翼がフジタカの肩に当たる。肩を押さえてフジタカは相変わらずの呼び方と態度でレブに接していた。

 「…………」

 レブが自分でお腹を擦る。……うん、しっかり腹筋の割れ目は見えてるよ。ぷくんと膨らんでたりはしないから。フジタカのはただの癖だと思うけどまだ気にしてるんだ、それ……。

 「見直したよね、レブの事。ね、フジタカ?」

 「余計かさばったじゃん」

 「減らず口が……!」

 こちらがレブの気を良くしようとしてもフジタカは汲み取ってくれない。空気は読める方なのにどうしてレブに対しては自分を曲げようとしないかなぁ……。

 だけど、フジタカがさっき言っていた事は後に問題となってしまう。今まではほとんど気にならなかったのに、どうしても避ける事はできそうになくなってしまった。

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