羅針盤の示す方向。
「ライはフエンテを誘い出す為に、ザナさんとチコ君達を利用した。それは今さっきの出来事が証明している。……今はこうですが、きっと起きればまた同じ事の繰り返しです」
ウーゴさんがそっとライさんの鬣に手を伸ばす。焚き火の音に混じってバチッと何かが弾ける音がした。……レブの流した電気をまだ帯電してたみたい。
「以前の方が良い毛並みだった」
「……身なりは前よりもきちっとしているのですがね。手入れを誤魔化しているんです」
失礼な事を言ったレブに対してウーゴさんは苦笑する。
「俺ではライを止められなかった。それどころか、知ってて加担した」
「随分、計画的で慎重だったのですね……」
カルディナさんも声の調子を落とす。ウーゴさん達がトロノにやって来たのは召喚士試験の前だ。街道ではベルナルドから私達を助けてくれたと思っていた。
本当は殺しにやって来ただけ。私達を助けたのは……これからもフエンテを釣る餌にする為だった。だから試験でもとても協力的だったし、優しくしてくれた。裏では誰よりも激しい憎悪を燃やしながら。それは並大抵でできる事ではない。燃やし続ける事だって心が削れてしまうのに、ライさんは全力で向かって行った。怯えてしまった私とは大違いだ。
「幸い、フエンテへの警戒よりも召喚士試験に注目が集まっていましたからね」
だから動きやすかった、か。ウーゴさんは私がライさんに指導してもらっている時に別行動している日も多かった。それって多分情報集めや他の事をしてたんだ。しばらく試験が行われていなかった資格試験の方に話題が向きやすいのも恥ずかしながら納得できる。私だっていつ来るとも知れぬフエンテを気にしながらも、と言いつつ実際は試験の方にばかり集中してしまっていた。
「ですが、それもここまでです。こうして、皆さんに知られてしまいましたからね」
ウーゴさんは薪を揺らして炎の大きさを調節してくれた。
「最後に、謝らせてください。……そう、フジタカ君の言う通り個人的な私怨にニクス様も……皆様も巻き込んでしまった。申し訳ありませんでした」
立ち上がって深々と頭を下げるウーゴさんを見てフジタカの耳が少しずつ曲がっていく。ライさんが言っていた俺はどうすればいい、というのは私にも分からなった。
「ライが起きたら……」
「引き続きピエドゥラを越え、西ボルンタを回る」
ニクス様の宣言にチコとトーロ、そして誰よりもウーゴさんが目を丸くした。
「で、ですがニクス様……我々は!」
「どうすると言う。話を聞く限り、フエンテ討伐を諦めるつもりは無さそうだが」
「……はい」
覆らない考え同士の激突に面食らいながらもウーゴさんはこの場を今にも立ち去りそうだった。
「君達がフエンテを追う上で欠かせない足掛かりは自分を護衛する任務に就いている。その自分が、このまま先へ進むと決断すればどうなる?」
足掛かり、は私とレブ……そしてフジタカだ。
「第一に二人の護衛の任を解いた覚えもない。勝手に職務放棄するのも頂けないが」
「しかしそれは……」
二人にとって護衛は二の次。勿論、ニクス様を守りながらではあるが一番はフエンテの討伐だろう。ウーゴさんはそんな考えを持った自分達が近くにいるべきではない、と思ってる。だから自分から最後と言ったんだ。
……うん、そうだよ。
「だったら一緒に来てくれればいいんじゃないですか?放っておいても私達をこそこそ追い掛けるって……それじゃ同じ事です」
誰と、とは言わないけどライさんが聞いてたら怒るだろうな。
「後ろめたいって思ってくれてる。それに、私がニクス様と同行できる浄戒召喚士になれたのはウーゴさんとライさんにも手伝ってもらえたからです」
そこに裏があったとしても、優しくしてもらえた事実も消えない。カンポにいた時から見ていたライさんと変わったところは色々あった。身支度が早くなったり、町で買い物するだけでも武装したり。レブが言っていた何を恐れている、と言ったのは……きっと誰よりもフエンテを警戒してくれていたから。
「……レブは知ってたんだ?」
「大方の予想はできていた。そして察しただけだ、その男の後ろで渦巻く闇をな」
腕を組み、足で胡坐を掻いているレブだが、足元が落ち着かない様でずっとむずむず体を揺らししている。……前は足が短くて普通に伸ばして座ってたもんね。
「知っていて……何も言わないでいてくれたのですか」
「言って聞かないからこの場にいるのだろう。まして、戦力増強が必須となれば経験者を起用する。妥当な判断だ」




