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紳士だった獅子の真意。

 引き返しながら私はレブの横腹にうっすら浮かぶ専属契約の召喚陣が目に入る。あの時と今では状況が違う。今ならもうちょっとはまともに描けたかな、と思いながらも当時はそれでも精一杯やったんだよ。

 一夜を明かすだけ、だから私達はあまり多くの薪は持ってこなかった。焚き火を見詰めてぼんやりするフジタカと、その横に黙って座るチコが既に暖をとっている。

 「…………」

 すぐに後ろからニクス様とカルディナさんにウーゴさん、それにトーロと手に包帯を巻いたライさんもやって来た。……皆でほぼ、無言で焚き火を囲む。すぐに食事、という気分にはならなくなってしまっている。

 「……君の父親、だったらしいな。追わなくて良かったのか」

 炎だけを見詰めながらライさんの一言が反響する。誰に向けられたかは確認するまでもない。

 「アンタ、俺達といればフエンテにまた会えると思ったから、わざと俺達を連れてこうとしたんだろ」

 フジタカもライさんもお互いの目は見ない。

 「……先に質問したのは俺だ」

 ライさんが自分の手を包帯の上から擦る。顔もレブの尻尾に叩かれたせいか若干右半分が腫れて見えた。獣人だから毛に隠れるけど、膨らめばいつもと比べて違和感が大きく現れている。

 「あいにく、顔も見るまで忘れてたくらいだよ。わざわざ追う程に執着はしていない」

 あんな形ではあるけど死んだ筈のお父さんにまた会えた。……喜ぶどころか、フジタカはあからさまに怒っていたと思う。今も反応がやけに薄いし。

 「このナイフは親父から貰ったもんだ。それを返せって言ってきたんだから、放っておけばまた来るだろ。……次はライさんの番だ」

 せめてナイフだけでも、と言って去ったロボの狙いは今の持ち主でも分からないみたい。フジタカの目線がまた出口を向いたけど人の気配はなかった。

 「……巡る様に仕向けた機会だったが、とんだ失態を見せたな」

 ライさんはフジタカの言葉を否定してはくれなかった。カルディナさんはライさんではなくウーゴさんを見る。

 「……貴方も、復讐ですか」

 「………はい」

 ウーゴさんだけは私達を見て、頷くと同時に頭を下げた。

 「止せ。……ウーゴは俺が力ずくで言う事を聞かせた」

 「召喚士にインヴィタドが命令をしているのか?」

 隣に座っていたトーロがライさんの肩に手を乗せる。しかしそれはすぐに振り払われた。

 「だからなんだ!俺は絶対にあの連中を皆殺しにする!でなければココは永久に救われないだろう!」

 またココの名前が出てきた。……あの出来事は私達だって忘れていない。だけどそれはもう過去の話なんだ。繰り返す方が苦しいに決まっている。

 「ライさん……。あの日襲ってきた人達を止めたのは……」

 「そこの彼だ」

 ライさんは血の滲む指でフジタカを差す。

 「ベルトランを殺したのはフジタカ君だ!俺が殺さないと意味が無かったのに!」

 「だから他のフエンテは自分で、って……おかしいじゃないですか」

 未だにあの日が続いているライさんに対してフジタカは落ち着いて返す。それが余計に相手の気を煽るとも分かっているだろうに。

 「またココの様な契約者を増やしていいのか!」

 「そんな事は言ってない!ただアンタはそんな上っ面の理由を塗り固めて私怨で暴れてるケダモノじゃないか!」

 「言ったなぁ……!」

 ライさんが立ち上がり、剣の柄に手を伸ばす。他の皆も慌てたがそこに一人、おもむろに手を伸ばす者が一人。

 「眠れ」

 「う……っ!」

 すかさず一瞬でその手はライさんの喉元に触れ、途端に毛が逆立つとライさんは力が抜けてそのまま倒れてしまった。……レブがさっきのベルナルドと同じ様にライさんも気絶させてしまったんだ。

 「加減はした。泡も吹いていまい」

 寝てるだけの様に見える。……気は遣ってくれたんだ。副産物の感電効果も使いこなす、ってこういう事なんだろうな。

 「………」

 見ても何も言わないフジタカ、怒りのままに倒れたライさん。それに対して見た目に反し中身は最初からほとんど変わらないレブ。……旅が始まって早々に、私達はバラバラになってしまっていた。

 「……これから、どうされますか。今からならまだ十分に引き返せる」

 提案してきたのはウーゴさんだった。ライさんに毛布をかぶせて心配そうに顔を覗き込んでいる。

 まだピエドゥラの中腹。これから今朝の野営地にまで戻って、明日は一日中なるべく休まないで歩けば夜にはトロノまで戻るのも無理ではない。今のレブなら一人ですぐに飛んでいく事だってできそうだし。

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