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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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轟雷の嵐が過ぎ去って。

 聡明な竜人ですら口論で争ってしまう。知性があればある程に争う理由が複雑化するけど、元を辿ればちょっとの悪意が伝染するのは変わらない。

 「竜人の戦争って事は……凄かったんですか?その、魔法のぶつかり合いとか」

 「凄惨熾烈、という言葉が適切でしょうね。築いた文明を滅ぼしかねない勢いの魔法が世界中、常に発動し国々を焼きました」

 簡単に言うけど竜同士の争いは一体一でも想像できない。本気の竜なら一匹で国を破壊させられると言われているのに、四元竜のほとんどが戦争をしていたなんて。

 「緑竜達は四元の中でも性格は穏やかな方でした。そのため緑竜の国は攻め入られ、長い争いでしたが四元部族の中でも一番に継戦が困難になりました」

 ティラドルさんの組んでいた指に力が加わる。

 「我も参加しましたが、当時は若かった。度重なり終わりの無い戦に疲弊し、遂には魔力も尽きかけました。赤竜の戦士と一騎打ちになった時、我は死を覚悟しました」

 レブは自分を殺せる存在はそうそういないと言っていた。同じ様に、竜を殺せる存在なんて普通は同じ竜ぐらいだと思う。

 「手練れの戦士に押し切られると思ったその時です。我と相対していた赤竜が殴り飛ばされました。……殴り飛ばしたのはもちろん同じ竜。それも、四元ではない色の」

 いよいよだ。

 「我の窮地を救ってくれた雷電の守護者。その御方こそ、紫竜アラサーテ・レブ・マフシュゴイ様です」

 「……レブが」

 レブが話の中に現れた。私も一層気を引き締める。

 「アラサーテ様は瞬く間に通り道を阻む竜を排除しました」

 「どうして?」

 辛い過去の話だと思うのに、ティラドルさんの表情は柔らかくなっていた。

 「竜の争いで、世界は変わってしまいました。気候も、体系すらも脅かしてこのままでは存続すら危うかった。きっと、そんな世界を憂えたのでしょう」

 レブが世界を心配して……。

 「あとは、お嬢様にお話しした通りです。各部族の豪傑を調べ、手近な者から順にアラサーテ様の制裁を受けました」

 ティラドルさんの語りに熱が入る。

 「四元竜の争いにまさか紫竜であるアラサーテ様が介入してくるとは最初こそ、疑いの声も出ました。しかし事実は実績を伴い伝播し、誰もが震撼しました。世界は争いに対しての絶対的な抑止力としてアラサーテ様を遣わせたのだと。降臨したアラサーテ様は嵐の如く力を振るい、遂には争う無意味さをその体一つで我々へ説く事に成功した。言わば生きる神ですね」

 レブは武神と呼ばれる事に抵抗を示した。それに、タムズとの戦いの決着の時に教えてくれた。私は災害の様に畏怖されていたって。ティラドルさんの言葉と食い違いはない。

 だけど、少し引っ掛かる部分もあった。

 「知らない事ばかりでした……」

 「異世界の歴史の勉強。召喚試験士達はたまにやっている様です」

 ビアヘロに詳しいソニアさんなら、異世界の生態だけでなく歴史にも詳しい、か。歴史を語る学がある相手にのみ聞ける話なんだろうけど面白そう。

 「話を戻しましょう。戦乱終結後のアラサーテ様の話です」

 「はい」

 ここからは私も聞いた事のない部分だ。

 「復興の傍ら、我は捜索の旅に出ました。再び、アラサーテ様にお会いしたい。ただその一心で」

 知ってか知らずか、命を救ってくれた相手だ。会いたいと思うのはよく分かる。

 「青竜の国と緑竜の国の中間にある大河。その上流にある滝でアラサーテ様と再会する事になりました。滝を浴びて身を清めていたアラサーテ様は……美しかった」

 私は陽の光を浴びたレブの本来の姿は見た事がなかった。そもそも、まだ二回しか見ていない。

 「あまりの神々しさに鼻血を垂らしていた我を見て、アラサーテ様は鼻で微笑みかけてくれました。その時に誓いました。もうこの御方に着いてゆこう、と」

 「そうなんだ……」

 当たり前の様にさらりと流したけど、この人も常識的に見えてかなり変わってる部分があると思う。それとも、恩人を見ていると貴重な竜の血の垂れ流しも気にならないのかな。……私はたぶんだけど、レブはティラドルさんを見て鼻で笑っただけだと思う。

 「話を聞くと、戦乱が終わりする事がなくなった、と仰っていました。平和を取り戻したは良いものの、使命感に燃えていた自分の行き場に悩んでおられたのでしょう。アラサーテ様は根っからの戦士でしたからね」

 「……レブには、そんな世界がどう映って見えたのかな」

 嵐の過ぎた世界はきっと壊れていて、元に戻るまで時間も掛かる。遠目に見ていた世界の争いを止めてから、レブはどうしたのだろう。

 「私はそんなアラサーテ様に提案をしました。共に世界を見て回りませぬか、と」

 「一度回ったんですよね……?」

 ええ、とティラドルさんは頷いた。

 「ですが、世界の景色は変わりました。変えたのは私達であり、アラサーテ様の力でもあった。だからこそ、争いの前、最中、その後を知る者として世界をどうすべきか……実際に歩いて見極めませぬか、と提案したのです」

 目の前でレブの力を見たからこその言葉だったんだろうな。

 「する事も無いから、と快諾してくださったアラサーテ様と世界を見て回りました。長い長い年月をかけて……」

 一口に旅をした、と言ってもレブの知識量からして何周もしたんじゃないのかな。……する事も無いから、って言い方がレブらしくて少し笑ってしまった。快諾、で本当にいいんだよね。

 「世界は良い方向へ向かっていると判断し始めた頃です。……我はアラサーテ様に少しずつ避けられる様になってきました」

 「え……?」

 ……今のレブとティラドルさんみたいな関係になった、って事?今は避けるどころか迎撃とか、先手を取って叩き潰そうかなんて勢いだけど。

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