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君の口から。

 彼がブドウ酒を一口飲んだのを見届けてから私も、もう一つの椅子に座った。

 「実感がまだ湧いてなかったからかな。応石はもらったし、試験監督にも合格と言ってもらえた。さっき、ソニアさんやライさんにもお祝いしてもらったんだけど」

 「困ったものだな。貴様の持つ力、無自覚に振るわれては困るのがこの世界だ」

 そう、人より特殊な力を持つのはどういう事か召喚士ならば分かっていなければならない。レブは中身が減ったグラスを切なげに見ながら呟く。

 「……あのさ、それで……お願いがあるんだけど」

 「聞こう」

 レブがグラスから手を離して私を見た。注ぎ足そうとしても、先に話してほしいみたい。

 「あの……レブにね、おめでとうって言ってほしいんだ」

 「………」

 自分でも何を言っているんだとは思っている。だからそんな目で見ないでよ。

 そう、戦ったのはレブで私は指示を出していただけ。この前こちらからお礼を言っても、レブからは休めと言われたんだ。だから、その……。

 「よく頑張った」

 「……レっ」

 私が俯いた時を見計らったのかレブの口が動いた。顔を上げた時にはもう遅い。レブはブドウ酒の瓶に手を伸ばしていた。

 「ね!もう一回!」

 「その手を離せ」

 レブの手より先に私が瓶を押さえる。そこにレブの手が重なった。

 「………」

 「………」

 目が合って、レブの手が動く。私の手をそのまま包み込んで、少しずつ瓶から離させた。しかし、手は握ったままで変わらない。

 「筆記は貴様一人の戦いだったのだろう。私は何をしたでもない。自分に力があったから成し得たのだ。ならば私と二人で勝ち取ったその資格……貴様の物だ。誇って良い」

 「……」

 あぁ、他の誰でもない、彼に言われてやっと辿り着けたと思う。自然と私の方からレブの手を握り直す。

 「ありがとう……!ありがとう!」

 「数日前に言われたばかりだ」

 「でも!」

 レブは苦笑するが私の気が治まらない。だって、私が一人前の召喚士って認定されたんだもん!浄戒召喚士になったならニクス様とも同行できる!

 「先程までとは随分機嫌が異なるな……」

 「レブに褒められたんだもん!当たり前だよ!」

 「まるで人を滅多に褒めない鬼みたいに言うのだな……」

 そこまで怖い存在とは思ってないよ。他の人はどうか分からないけどね。でもぶんぶん振っていたレブの手はそろそろ離してあげないと。

 「ごめん!はい、お詫びとお礼にブドウ酒です!」

 「敵わんな……」

 本当、レブはブドウ酒が好きだもんね。私が注げばレブはすぐに飲み干した。

 「……酔わずとも、酒宴は続きそうだな」

 「今日はやっと始まるんだよ!今までの見習いじゃない、一人前としての召喚士になれた日なんだもん!レブだって、すぐには寝かせないよ!」

 前と同じ様に直接瓶を口に付けようとしていたレブの目が一瞬据わる。

 「貴様に寝かせないと言わせる日が来るとは……成程、確かに今日は特別だ」

 「だったら、もう少しゆっくり飲んでよ。……ご飯、部屋で二人で食べよう?」

 「うむ」

 私が立ち上がるとレブも瓶から手を離してくれる。早く戻らないと我慢できなくなるだろうから、私は速足で部屋を出た。

 「頑張った……だって!」


 他の人に言われても嬉しかったのに戸惑った。だけど彼が言った事ならすんなりと受け入れられる。人からの言葉を受け取るのに差なんてあるのは良くない。

 だけど、やっぱり私にとって彼は特別だった。特別に、なっていたんだ。もう、とっくに。

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