逸る気持ちに反して止まる足。
「それでは試験の一切を終了します。合格者には追って、トロノ支所長ブラス様より連絡がいきますので、まずはご苦労様でした」
試験監督に合わせて私達受験者は頭を下げる。
「不合格だったお二人は、また次回の挑戦をお待ちしています。……では、これで」
最後にルイさんとマリタさんの方を見てから試験監督は一足先に室外へと出て行った。周りもちらほら解散し始めたので私も試験室の外を目指す。チコと話すのは後で。
まずはレブに会いたい。私と貴方で掴んだこの応石を見て、できれば一緒に喜んでほしい。先にブドウ酒も持って行こうかな。
「あ……」
「お疲れ様、ザナさん」
しかし、試験室を出て三歩。私の名前を呼んだのはレブではなく、獅子の獣人。
「ライさん……!」
「待っていたよ」
そうだ、レブは戻る時間が分からないから廊下じゃなくて部屋に戻していた。壁に背を預けていたライさんは私を見付けると、他の受験者をすり抜け私の前に立つ。
「おめでとう」
「あ、ありがとうございます……」
最初のおめでとうはレブに言ってほしかった……って、レブじゃ言ってくれないよね、きっと。
「あの、聞こえてたんですか?その……試験の結果……」
「いや。でもザナさんのその表情を見ればすぐに分かるさ」
ライさんが私を見て微笑むものだから私は顔を押さえる。そんなに浮かれた顔しちゃってたのかな、私……。
「聞こえていたというより、実技を見せてもらっていたんだ。少し離れてだけど、ウーゴと一緒にね」
だから試験結果は読めていたのか。この三日、姿を見なかったからウーゴさんと何かしているのかなと気になっていた。
「ウーゴさんは一緒じゃないんですね?」
「今日は買い出しに行っていてな」
何のだろう、と思ったけどすぐに気付いてしまう。
「そう、契約者との旅の支度だよ」
私達が浄戒召喚士になった理由。私も今なら堂々と言っていいんだよね。
「ライさん、その旅は私も……」
「無論、同行してほしい。……チコ君にもね」
ライさんが私の頭上へ視線を向ける。振り返ればチコが立ってこちらを見ていた。
「分かってます。……だから俺もフジタカと一緒に戦ったんだ」
言うだけ言って、チコはそのまま自室へと向かって歩き出した。……フジタカに話すのは、チコの役目だよね。ニクス様へは……私から話したい。
「チコ君は行ってしまったが、二人ともよく頑張ったじゃないか」
「……はいっ」
それもレブに言ってもらいたかったかな。先ばかり越されて部屋に戻りたい気持ちも募っていく。
「それじゃ私は……」
「ザーナー!」
そろそろ話を切り上げようとしたところで試験室の方から声がした。振り返ればニコニコ笑ったソニアさんがやってくる。
「ソニアさん!お疲れ様でした!」
「聞いたわよ、合格したって。やるじゃない」
「えへへ……」
ソニアさんやライさんは私が試験を受けるまでの間、ずっと一緒に勉強や訓練に付き合ってくれていた。そんな二人に挟まれて祝ってもらえば、どうしても表情は緩んでしまう。たぶん私一人だけでなく、レブにもその言葉を皆から伝えてもらいたいから後ろ髪を引かれるんだ。本人は気にしないだろうけど。
「ソニアさんももしかして……」
「あったりまえでしょ!ほら!」
ぶるん、と胸を張ってソニアさんは自分の腕輪を私に見せてくれる。そこには白い応石だけでなく、黒い応石も嵌め込まれていた。どうやら召喚試験士の資格所有者に与えられる応石は黒、らしい。
「おめでとうございます!」
「ありがと。……そっちのインヴィタドは?」
目を細めて笑ったソニアさんがやっとライさんを見た。今日まで話した事が無かったんだ。
「ライネリオさんです。カンポから来た……」
「あぁ、契約者の……」
カンポ、と言った時点でソニアさんは察してくれたみたい。ウーゴさんは知っていてもおかしくないが、そのインヴィタドのライさんまでは把握してなかったのかな。勉強や訓練の時も二人は分けて予定を組んでいたしね。
「どうぞ気楽にライ、と呼んでください。宜しくお願いします」
「ソニアよ。こちらこそ、ザナがこれからお世話になるでしょうけど」
「お任せください」
二人は穏やかに握手を済ませる。ソニアさん、初対面の時と比べると本当に丸くなったなぁ。……ティラドルさんのおかげ、かな?今ではカルディナさんと同じ様に私にとっては良いお姉さんというか召喚士としての先輩だ。
「じゃあザナ。カルディナに会ったら伝えといて。私はアナタの先を往く、ってね」
「わ、分かりました……」
ただし、ソニアさんとカルディナさんは今でも仲が悪いと言うか互いに意識し合っている。険悪ではなくて、強い言葉を使いながらも高め合えているのかな。




