それぞれの結果。
「そういう事でしたら」
納得されてチコもぎこちなく笑う。フジタカの力、できれば使いたくなかったんだろうな。自分一人の力でどうにかしたかったみたいだし。
「最初からインヴィタドを事前に用意せず、立て続けに召喚したあの魔力量。そして連携は素晴らしかった。発想も面白い」
出し過ぎるだけの魔力の蓄えに、咄嗟の機転。チコの判断力は他の受験者に比べても抜きん出ていたと素直に思えた。強いて言うなら、スラレムの名前は考え直した方が良いかも。
「流石は、特待生ですね」
「………はいっ!」
試験監督からもらったその言葉の意味をチコは誰よりも知っている。その重さを背負う事、背負い続ける事の困難さ。しかしチコは今度こそ、召喚士選定試験で勝ち得た特待生の名を……自力で物にした。
「これを」
そっとローブから取り出した白く透き通った応石を監督がチコへ差し出す。受け取らせると自分の腕輪と同じく嵌める様に促した。
私達の腕輪にあった小さな窪みへ針で穴を開け、金具で留める。チコが掲げると、収まった応石は室内の灯りを微かに反射した。資格の証だけでなく、魔力を高め反応する役割も担っていると前にカルディナさんから聞いている。
「これで今日から貴方は浄戒召喚士として扱われます。その自覚を、応石を見る度に思い出す様に」
「はい。今度もトロノ支所の特待生として恥じぬだけの力を……手に入れます」
チコの返事は静かだったが力強かった。先を越されてしまったな。
「そして特待生はもう一人。ザナ、次は貴女です」
「はい……」
私を向いた監督の表情は穏やかなままではなかった。
「インヴィタド一体の単騎突破。多少、あのインヴィタドの持つ力に頼り気味になっていましたね」
レブしかいない私にはどうやっても避けられない話題だった。一度頷くと監督はそのまま続ける。
「しかも若干振り回されている」
その通りで言い返せない。だって私ではレブを力で、魔力で押さえ込むなんてできないもの。
「しかし」
監督の口から出た接続詞に私は俯きかけた顔を上げた。
「命令に対しての大振りながら忠実な行動を見るに、関係性はとても良好。よく手懐けていますね」
懐いている、なんて表現をレブが聞いたら怒るだろうな……。彼の怒る姿を想像している間に言われてしまう。
「よってザナ、貴方も合格です」
「あ……」
その言葉を聞いて私は全身をまるで感電したかの様にぶるりと震わせた。すぐにでもレブに飛び付きたい。聞いてほしい、今、私がやっと出発地点に立てたこの気持ちを。
「では、これを」
渡された応石を受け取って痺れたままの頭で腕輪に取り付ける。向けられる拍手にぼんやりとしたままでも言わないといけない事がある。
「……ありがとう、ございます!」
「ご自身が頑張った結果だ。顔を上げて」
深々と下げた頭上からかけられた声に涙が浮かぶ。でも、彼らの前で泣きはしない。この涙を共有できるのはきっと、彼だけだから。
「はい!」
自分の腕輪にそっと手を添えて私は精一杯笑顔を浮かべる。
「では次に……」
そして召喚士試験の結果発表は続く。チコと私と快調な出だしから一変、次のルイさんとマリタさんは不合格だった。
理由は二人に共通していたのが、自分のインヴィタドに拘りが強過ぎたから。横で聞いていて私とチコも耳は痛かった。拘りなら私達の方がきっと濃いし。
ただしその拘りを貫き通すだけの力が伴っていなかったとの事だった。シルフを使うにも、スパルトイの様な相手には不向き。ルイさんは他のインヴィタドで戦った方がもっと継戦できただろう。一方、マリタさんは使役する予定のインヴィタドからサラマンデルとゴーレムに変えてしまった。対応できるのなら良かっただろうが、慣れない召喚で場しのぎにしかならなかったから倒せなかった……。
二人とも歯噛みするばかりで言い返したりはしない。監督は淡々と事実を指摘するだけだったからだ。
最後に残ったイラリオさんだったが、彼は三人目の合格者として監督から応石を受け取っていた。それは私達も結果に声を洩らしてしまう。
イラリオさんの場合、戦う試験で戦っていない。オヴィンニクの魔法で炎の防壁を作り、悠々とその場に立っていただけだ。
だが、当然召喚士をスパルトイから守る様に指示を出していたのはイラリオさん本人。制限時間内で敵を一体も倒さなかったが、最後まで守り通させた。その部分と筆記試験の成績を加味しての合格。説明を受ければ誰も異を唱えたりはしなかった。




