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気付く違い。

 「試験じゃなかったらもっと早く倒せたよね」

 「見せ付けないといけないとはまた、難義なものだな」

 召喚士が戦うわけではない。しかし試されるのは召喚士だから、見られているのは実はインヴィタドじゃなかった。戦えるだけの力を持つインヴィタドを、どの様に振るうか見られていたのを感じてやりにくかった。もしかしたら“そこは押すよりも引くべき”とか思われてたかな、なんて。

 「でも終わった事だもんね。あとは結果が評価してくれる……」

 「そうだ。この機にできる事は発揮しただろう」

 できなかった事ももちろんあった。本当はもっとレブに早く指示を伝達する手段もあったのに私は試さなかった。……それが確実に行えると自信がなかったから、手応えと慣れで挑んだ。できる事を全力でやってもまだ先があると知っている。そこに至れていないままの自分は、痒い所に手が届かないままだった。

 「……ねぇレブ。終わった事、って言ったけど聞いてもいい?」

 「話してみろ」

 椅子に座るレブを敢えて、私の隣に来てほしいとベッドを叩いて呼んでみる。すぐに椅子から跳び移って彼は私の顔を覗き込んだ。

 「さっきの……スパルトイの事、教えて」

 レブは試験中にスパルトイを使った召喚士に対して、この私の前で使う意味を知っているのならば勿体ぶるなと言っていた。何を言われたか分かった試験監督が倍に増やしたのが気になっていたんだ。

 「その事か」

 伏し目にしてレブが床を見る。

 「あの牙の持ち主である竜と古い仲だった。それで思い出してな」

 「古い仲って……テーベの竜と?」

 聞き返すとレブは頷いてこちらを見た。

 「別個体という可能性もあるが……あのスパルトイが帯びていた微かな気は我が友と同じだと思った」

 「信じるよ、と言うか……いいのかな」

 「構わん」

 スパルトイがいたならそのレブの知り合いは退治されたか懐柔されている。それをレブが気にしていると思ったけど……見る限り、大丈夫みたい。

 「最後に会ったのはティラと出会って少しした後だ。どうなったかなんて知れたものでもない」

 それでも瞬時に思い出したんだ、きっと親しかったんだろうな……。

 「どんな竜だったの?」

 「うむ。私とは毒息仲間でな。よくその毒の効能を競い合わせたものだ」

 早速ちょっと想像しただけで具合が悪くなりそうな話をされて私は苦笑してしまう。なかなかこの世界じゃ聞けない集いだよね、それ……。

 「黄金の鱗に覆われ、毒を溜め込んで膨れた屈強な身体と長い首先の顔は凶悪でな」

 だけど競い合ったりする仲だったんだ。当時の大きいレブとテーベの竜が並ぶ姿を思い描くけど……絵面の迫力が凄い。凶悪な顔って自分の事は棚に上げてないよね……?

 「力比べで私が勝る分、奴はああいった牙での小兵での戦いが得意でな。……竜人相手には子ども騙しだったが」

 「実際に見た事もあったんだ」

 スパルトイを直接竜が使役する瞬間を。だから試験でもすぐに経験として呼び出せた。

 「……昔話に興じるつもりは無かったのだがな」

 「でも、ちょっと楽しそうだったよ」

 今までのレブは聞いても嫌そうにする事が多かったから。

 「……生きていれば、生きた分だけ毎日へ起因していく。故に妙な事に遭遇してしまう機会もまた、往々にして起きうる。今日はそう思える日だった」

 レブでもそんな風に思うんだ。だけど、レブの昔話は私からすればきっと歴史の勉強では追い付けない、神話の話にまで遡る事もありそう。

 「………」

 「どうした」

 「う、ううん……」

 私はレブと同じ時間を共有している。今、どうしてか考えた途端に胸が苦しくなった。どこかで、その時間が断たれてしまう。そんな気がして。

 「これからはもっとそうしていくんだよね」

 「たまにでいい」

 スパルトイの出所をレブが気にしている様子は無い。無関心ではないだろうけど、結果として受け入れているみたいだった。

 私の知らないレブがいる。ティラドルさんですら知らないレブもいる。きっと私がレブと一緒にいられる時間は、彼にとっては極めて短い時間になってしまうのではないか。まさか召喚士の認定試験でそんな事を新たに考えさせられるなんて。

 ……嫌だな、って思ってしまった。これからも続く私の人生が彼にとっては一瞬。もっと彼と過ごしていたい。自然とそんな事ばかり頭に浮かんで顔が熱くなってきた。

 「どうした。知恵熱、というやつか」

 「ううん……違う」

 どうあっても私ではレブの毒息仲間にも竜人にもなれない。会話を成して、通じ合っても時間の過ぎ方が違ってしまう。その差に、ただの人間である私はどうやっても……追い付けない。

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