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抜くか、引き締めるか。

 全員の試験終了後に私達は午前中に筆記試験を受けた一室に戻された。そこで私を待っていたのはブラス所長とニクス様ではない鳥人、そして他の試験受験者達だった。

 「あれ、結構戻るの早かったね」

 「用意した分のほとんどが使い物にならなくなりましたよ。かなりはっきり力を見せてもらいましたからね」

 所長と試験監督の話を聞きながら私は廊下で待たせたレブの事を考える。さっきのスパルトイを見た時から少し気を張ったままにしていた。魔法を使った時も妙な言い回しをしていたし。

 接戦をして決着がつかないと思っていたが、前回や他の試験に比べて私達は早かった……?やっぱり試験の方法で随分変わってくるんだろうな。

 「それでは浄戒召喚士、召喚試験士、召喚技術士の試験は全員が戻ったのでこれで終了です。結果は三日後に発表します。……何か質問は?」

 手をパン、と叩いてブラス所長が受験者を見回す。私も見える範囲で確認したが表情の明るい者は少ない。特に召喚技術士を受験した人達は俯いて机の一点を見ている者が多かった。

 「では解散!長丁場の試験でしたがお疲れ様でした!」

 その後二、三言所長が言って試験監督達と話している姿は気になったが、まず私とチコは受験室から出て待たせていた二人と合流する。レブもフジタカも扉の横に立っていた。それに、他のインヴィタド達も何人か自分の召喚士を待っていたらしい。

 「……終わった」

 「おう」

 簡単な報告だけでチコとフジタカは歩き出した。フジタカはこちらを一度向いて手を振ってくれたから私も振り返す。チコに筆記の手応えや自己採点の確認もしたかったけど、それは一人でやるしかなさそうだ。

 「私達も」

 「あぁ、戻ろう」

 途中、廊下で会ったイラリオさんやマリタさんに挨拶しながら私達は自室へ戻った。トロノの外へは出ていないのになんだか旅をしてきた時と同じ疲れ方をしたように感じる。

 「召喚士試験、やっと終わったんだ……」

 目標に向かって進むと終わりが必ず訪れる。今まで積み重ねてきた向こうに待っていた開放感。それは時に風が通り抜ける様に爽快で、時に雪原に一人取り残された様に何も見えなくなる。私が今感じているのはその両方であり、そこに浸りたいのに走ってどこかに辿り着きたい。その矛盾に何も考えられなくなってしまう。

 「結果はまだ出ていない」

 ベッドに座ってぼうっとしてしまう私を現実に引き戻してくれるのはやはりレブだった。カタカタと風に揺れる窓枠の音がそこでやっと耳に入る。

 「あ、うん……。そう、だよね」

 三日か……。受験者はあまり多くないし、すぐに結果が聞けるものだと思っていた。

 「はぁ……」

 靴を脱ぎ、仰向けに倒れて暗い天井をぼんやりと見詰める。気を抜いてはいけない。だらけてしまうと立ち直るまでに時間が掛かる。だから私は今日まで……。

 「早めに休めば良い。今日まで疲れただろう」

 「ぶ……!?」

 瞼が重くなりかけたところにレブからの言葉に驚いて勢いのまま私は腹筋で起き上がった。

 「……なんだ」

 目を細め、口をぐにゃぐにゃに曲げて私を見るレブに思わず私は笑いを堪えられずに吹き出した。口元を押さえても止まらない。

 「ど、どうしたの……。そんな、急に……ふふっ、ふふふっ!」

 「………」

 「も、もう笑わないから……ね?」

 もう口も利きたくない様に顔を背けてしまったレブに手を合わせる。それに、私だってまだレブと話をしたい。

 「……根を詰め続けていた貴様をこの部屋で、訓練場で見ていたのだ。気にならないわけがない」

 そりゃあ試験だもん、合格する為に必要な事はしないといけないよ。でも……その間に私はレブと何をしていただろう。あっという間に過ぎて、二人の時間を取れていなかった。

 「……心配、してくれてたんだ」

 「……別に。体を壊さない程度で迎えられたのだ、それは自身の日頃の行いの賜物だろう」

 フジタカは一夜漬け、という方法で試験を乗り切った事もあるらしい。でもさすがに徹夜で合格できる程度の試験ではなかった。私も今日、自分で体感している。

 「……ねぇレブ。今日はありがとう」

 「最初から協力するつもりだった。言っただろう」

 うん、知っている。レブは初めて会った時からずっと私に協力してくれていた。

 「一応練習しておいて良かったよ」

 「あんな連中に遅れる私ではないのだがな。しかし貴様の命令は的確だった」

 私もレブがスパルトイくらいに負ける事はないと分かっている。それでもレブは私の言う通りに動いてくれた。そして本人からもお墨付きをもらえると、冷や冷やしていたあの一瞬も無駄ではなかったと思える。

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