発揮できるから実力。
「試験を治める立場の者が受験者に助言をするな……!」
私だって分かっている事へレブが威嚇の表情そのままに飛び掛かる。レブしかいない私にはレブが抜かれたら無防備になってしまうのは必然。
だけど、レブは必ず私を守る。だから移動できなくても構わない。
「右端から!拳、蹴り!魔法は禁止!」
「承知!」
レブが地面を一蹴りし、跳び上がってまずは一体の頭を右腕の一撃で破壊した。乾いた枯れ木を殴った様に、拍子抜けする程に簡単に砕けてレブも勢いを余らせ回転する。
「おぉぉぉ!」
しかしそのまま着地しつつ足払いをして隣にいたスパルトイの足を折る。体勢を崩した相手に自分の尻尾を叩き付け、そのままの勢いでもう一体の腰も尾で叩き折ってしまった。残り五体。
「次!」
「拳で二体!」
レブが私の指示を求めて目線を送る。こちらからの条件に頷く間にレブはスパルトイの手刀を額から受けてしまった。
「本体から離れればその程度か……!」
レブの額に打ち負けたスパルトイの腕にヒビが入る。その部分から掴んでレブは握り潰してしまった。手から破片を溢しながら同じ様に手刀を振るうと今度のスパルトイもあっさりとその細い体を崩壊させて動かなくなる。
両腕を振り下ろしたスパルトイに圧し掛かられる。レブも相手の腕を掴んでいるが今度は握り潰せない。心なしか、先程のスパルトイよりも腕が少しだけ太い。恐らく、あの植物状の蔦で筋肉代わりの部分を増量している。となれば、中が折れていようと離れる事は無い。
「足を狙って炎を吐いて!」
「ぶぉぅ!」
レブの武器は手足だけではない。その角も、翼も、そして吐息でさえも相手にとって脅威となり得る武器だった。彼の吐いた炎はスパルトイの足を焼き尽くして踏ん張りを失う。レブは上半身だけになったスパルトイを振り回して上空へ放り投げた。
「レブ!……魔法解禁!」
その一言で私の胸がズキンと痛む。レブに魔力が持って行かれたと体が感じ取っているからだ。
「雷よ……輩の末端を……」
レブが自分を挟み込むスパルトイ三体と不完全な一体に両腕を向ける。
「眠らせろ!」
閃光がその場に居た者の視界を通り抜ける。直後に地面の一部とスパルトイが、大きいが短い爆発音と共に弾け飛んだ。見れば地面には蛇が這った跡の様なヒビ割れが長く尾を引いている。
「……戻って」
「御意」
スパルトイの破片が風に舞う。焦げ臭い香りを鼻腔に感じながらレブに小声で言えば、聞き及んでいた様ですぐにこちらへ引き返す。
「……試験、終了です」
その間、ものの数十秒。試験監督は苦い表情のまま私の試験が終わったと告げる。状況の確認は見ての通り、レブによる全滅だった。
「ありがとうございました」
私は一礼してからレブと共に次の受験者達と交代した。その後の展開に私は息を呑む。考えていたよりも接戦が続いていたからだ。
ルイさんが召喚したシルフは風を研ぎ澄ませた刃の様に魔法を使うが、スパルトイを切り裂くに至らなかった。蔦の一部を退け、身体の部分に傷を負わせるだけで致命打にならない。途中から三体呼び出してようやく撃破したが、その時には魔力切れを起こして第二陣には敵わなかった。
マリタさんが召喚したのはサラマンデルとゴーレム。チコと違い、スライムの召喚陣は用意してこなかったらしい。ここではチコが戦っていた時とは様子が異なる展開を見せた。
ゴーレムの肩に乗ったサラマンデルが縦横無尽に岩壁を動いて炎を吐く。そのサラマンデルの動きを止めるのにスパルトイが四体総出で襲い掛かった。その過程で先にゴーレムの核が潰されてしまう。しかも、魔力の逆流を防いでいなかったらしくマリタさんが呻いたところにサラマンデルも続け様に仕留められる。そのまま召喚士を取り囲まれてマリタさんは膝から崩れ落ちた。どうやら今回使うつもりだったインヴィタドを今回の試験では不適と判断し、急遽あの二体を呼び出した様だった。
残りのイラリオさんが呼び出したのは漆黒の猫、オヴィンニクだった。同じ炎の精霊としてサラマンデルは度々現れていたが、それよりも小ぶりで動きも素早いとは言い難い。
炎の使い方も特殊で、赤く輝く目から火を放つその姿は見ていて異様だった。しかし、その力は守る事に大いに役立った。
ギリギリまで引き付けて炎を放つオヴィンニクにスパルトイは一切近付けない。範囲の広い炎に乗り越える事もできずにスパルトイは徐々に焼かれ、最後まで四体残っていた一方でイラリオさんにも誰も触れる事は無かった。




