岩剣の連携。
「次はどうする?」
「………っ」
再び試験監督が口を開く。チコは歯噛みをして一塊になったインヴィタドを見ていた。
スパルトイはあの状態から自力で抜け出せそうにない。しかし、それはスラレムも同じ事だった。スラレムの方からスパルトイを倒す術もなかった。
「膠着状態に追い込んだまではいいですが、これでは……」
「……甘いっ!」
チコが俯きながらも叫ぶ。前髪に隠れた表情は見えないが試験監督はそれ以上言わない。
「フジタカ……頼む!あの二体を斬ってくれ!」
それはチコからの願いだった。フジタカへの強制力は持っていない。なんだか、以前の私とレブを見ている様だ。
チコが試験監督に叫んだ言葉の意味が今分かる。そう、ずっとチコの隣には、彼がいた。
「……やっぱり凄いよ、お前は。あとは任せとけ!」
ニエブライリスを構えて遂にフジタカが走り出す。その歩みを止める者は誰もいない。
これこそがあの二人得意の戦法だ。私とレブでは再現できない、あの二人だけの呼吸。それは未だに健在だった。
「おぉぉぉぉ!」
まずは一体の細い腰を剣で叩き折る。試験監督の命令か、残り一体になったスパルトイの動きが激しくなった。抵抗してじたばたと粘液から逃れるべくもがくがもう、とうに遅い。
「はぁぁぁぁぁ!」
大上段からの一刀が肩から胴に抜け、スパルトイは崩れて動かなくなる。粘液を払い飛ばしてフジタカが剣の切っ先を試験監督に向けた。
「「次はどうする?」」
スラレムが泥を作りながら一歩前に踏み込み、チコとフジタカの声が重なる。
「……いいえ、試験はここまでです。お下がりなさい、ご苦労様でした」
乾いた拍手を試験監督がチコへと送る。それに遅れて私や他の召喚士もチコとフジタカに拍手した。だって彼らの勝利で間違いなかったもの。
「……っしゃあ!」
「あぁ!」
チコとフジタカが互いの手を叩き合わせて喜ぶ。あの二人はもう、あんまり心配はしなくても大丈夫なのかも。
「……次の受験者、ザナ・セリャドは前へ」
「はい!」
チコ達と一緒に喜ぶ間も無く試験は続く。次に呼び出されたのは私だった。その隣には当然、レブも続く。
召喚陣を回収したチコやフジタカとすれ違って空気が変わったと気付く。この胸を押さえたくなる緊張感は筆記の時とは違う。実戦に近い空気感をあの試験監督がわざと放っているんだ。
「では、始めますよ」
「お願いします!」
少し離れて声を張る監督に私も頭を下げる。顔を上げると、既に監督は手にスパルトイを呼び出す牙を四本用意していた。
「待て」
牙を撒く前に止めたのはレブだった。
「……何か?」
これはあくまでも召喚士の試験だ。レブを試す場ではない。監督もどちらかと言えば私の方を怪訝そうに見ている。なんで勝手にインヴィタドを喋らせているの?とでも言いたそうにしていた。
「どうせ試すのなら、勿体ぶるな。お前がその牙を、この私の前で使う意味を知っているのならばな……!」
「………!」
レブが試験監督を威圧しているのは明白だった。気圧された様に監督は牙を入れていた袋に手を入れる。
そして牙を地面に放ると先程と同じ、ムクムクと土が盛り上がりスパルトイが現れた。その数はそれでも八体。レブは足の爪を勢い良く地面に突き立て土を蹴飛ばした。
「その程度か……」
「あの八体を倒せば良いんだよ!他の受験者もいるんだよ!」
堪らず私が言うとレブは目付きを鋭くして私を睨む。……睨むだけの理由があの牙にはあるのだろう。
「……測るのが目的だったな」
それでもレブは無理にでも自分を納得させたいのか口に出して拳同士を打ち鳴らす。もう気にする必要は無さそうだ、少なくとも今は。
「……行くよ!」
「うむ」
私の合図と共にレブが翼を広げる。それと同時相手のスパルトイ八体が一斉に動き出した。
今日までの自分を信じる。今日まで一緒に戦ってくれたレブを信じる。フエンテを恐れて常に力を温存しながら生きてなんていられない。今は、私が一人前の召喚士になる!その為に!
「レブ!飛んで!」
「はぁ!」
私の声にレブが上空ではなく前へ飛ぶ。その勢いは脚力とも合わさって、爆発的な加速を生みながらスパルトイ達へと肉薄した。それは勢いがあり過ぎて最初の数体を見逃す程にまで達している。
「く……分かっているのですか。召喚士はこの戦闘に介入できない。守り切れないのなら……」
そう、試験監督の言う通り私は魔法でレブを援護できない。援護したり、もしもスパルトイに私が捕まれば不合格になってしまう。




