試験開始。
「それでは、今日受験者の皆さんが相手をして頂くインヴィタドを紹介しましょう」
試験監督が取り出したのは、若干汚れてはいるが何か白い物だった。手の中でからからと転がすと急にそれをばら撒いてしまう。
「ふんっ!」
監督が拳をしっかりと握ると散らばした牙の様な白い物が、犬歯の先の様に尖った部分から地面の中へと潜っていく。そして数秒で変化は起きた。
「ウゥ……!」
「ウゥァ……!」
ぼこ、と土を下から掘り返して現れた異形にルイさんが一歩下がった。聞く者の胸を絞める程の呻きを上げながら出てきた対戦相手は尚も数を増やしていた。
「……スパルトイ」
「お見事。ザナさんには加点をしておきます」
対峙する相手を見て私が名前を言い当てると監督は暢気に答えた。それを聞いて他の受験者達もざわつく。これでまた一歩、合格に少しでも近付けたのかな。
スパルトイ。それは泉を守る黄金の竜の歯から生まれる兵士だった。歯を撒いた者の言う事を聞き、その身体は疲れ知らずで戦い続けられると聞く。
その姿はさしずめ動く人骨と植物を合わせた物に似ていた。最低限の骨格を持ち、筋肉の代わりに植物状の蔦が全身に絡まっている。関節や筋肉のつもりだろうが、その蔦が逆に動きをぎこちなくしている様にも見えた。
「今回はこのスパルトイを相手に一定時間戦って頂きます。倒すのみならず、耐えしのぐという戦い方も場合によっては評価されます。まだまだ数は用意できるので、存分に戦ってください」
あの歯は竜から取らないと手に入れられない。だとすると、この試験監督はテーベの竜を倒したか召喚して直接採取したか。どちらにせよ、相当の手練れだと思う。
「……では、どなたから?」
「俺だ」
真っ先にチコが名乗りを上げる。誰も口を挟む隙も無い即答だった。
「よろしい。では、位置についてください」
監督の指示に従い、訓練場の指定された場所へにチコが移動する。その後ろにはフジタカも続くが、未だに前へは出ない。
「……準備は?」
「これだけ」
スパルトイも四体のろのろとチコの正面へと移動する。フジタカを前に出そうとしないチコに流石に試験監督も確認で尋ねたが彼は召喚陣を地面に三枚のみ放って腕を組む。
「お願いします」
「……では、はじめぇ!」
監督の号令と共にスパルトイが走り出す。その動きは定位置に移動した際とは雲泥の差で素早かった。
「来いやぁ!」
そこに、目くらましと言える程に強烈な光がチコの声と共に発せられる。その場にいたほとんどの者が目を腕で覆い、光の強さが弱まった頃に腕を退かすとその光景に目を見張る。
「行けぇ!」
チコが召喚したのはスライムとゴーレムにサラマンデル。どれも核を起点にして実体を持たず、自分の操作で動かす必要のあるインヴィタドだった。精霊であるサラマンデルも自発的に相手を倒さない。チコの方から働き掛けないといけないのだから負担も大きい筈。それを一気に召喚しけしかけた。迷わず進むゴーレムとサラマンデル、そして遅れる様にずるずると這うスライムは間も無くスパルトイに接触する。
「アァ……!」
「ゴーレムっ!」
スパルトイの振り上げた腕をチコと同じくらいの大きさをしたゴーレムがなんとか左腕で受け止める。しかし、その直後もう一体のスパルトイがゴーレムの胴に鋭利な腕を突き込んだ。
「アァウ」
手応えを感じて喜んだのかは分からないが短く声を洩らしてスパルトイが腕を横に薙ぐ。体の均整が崩れたのか、ゴーレムはガラガラと下半身を崩してその身長を半分ぐらいにされてしまう。
「今だ!スライム!サラマンデル!」
「アァァァァァ!」
崩れたゴーレムの隙間を埋める様にスライムが入り込み、破片を凝縮させてスパルトイ三体の足を一気に固める。そこにサラマンデルが炎を一気に吐いてスパルトイを黒焦げにした。
「よっし!」
ゴーレムの核が徐々に崩れた下半身を再構築し始める。その横でスライムもサラマンデルの炎で蒸発しなかった分だけだが再生した。
「アァアウ!」
「しまった!」
しかし残り一体スパルトイは残っている。その一体が飛び掛かり、まだ移動できないゴーレムの核を腕で一突き。すぐにガラガラとゴーレムは崩れてちょっとした岩の山を築く。
「く……サラマンデル!」
「アァァ」
良い調子を乱されてチコが慌ててサラマンデルへ指示を出す。しかし火蜥蜴の精霊が炎を口から噴出した時には既にスパルトイは跳んで躱していた。しかも近くにいたスライムの大部分が炎で焼け溶けてしまう。




