誇るべき力を奮わせて。
第二十九章
午前中はトロノ支所の中で筆記試験を行い、午後は実技の試験として訓練場へと受験者達は移動する。試験監督は私も話した事が無い別の町から来た召喚士だった。
インヴィタドと自由に活動する資格を与えられる物であり、試験は当然厳格に審査される。実技の方を重点的に評価されるとは言え、私は筆記にも集中して取り組んだ。
回答を求められたのは召喚陣に触媒として使用される応石や植物の名前、そしてその触媒を利用して現れる異世界の住人の傾向や誤って呼び出した時の対策方法。セルヴァやピエドゥラ周辺で確認できる鉱石はわざとあまり出題されていなかった。まぁ、それなら東ボルンタに住んでいる自分達には有利だし。
予習はしておいたからその辺の問題は答えられたと思う。問題はこれからの実技の方だ。
「引き続き実技試験を行います。準備はお済でしょうか」
他に浄戒召喚士試験を受けるのはチコとルイさん、イラリオさんとマリタさん。私を含めても五人しか訓練場へ来ていない。午前中の試験で一緒だった他の受験者達はそれぞれまた別の資格試験を午後に受けるらしかった。今回は既に浄戒召喚士の資格を持っている人達も多かったみたい。
「いつでも」
チコが前に出て、その一歩後ろにフジタカが立っている。背中に背負った剣をまずは抜き放つ。
「これから課すのは、いかに素早く受験者のインヴィタドが的確に試験用で召喚したインヴィタドを退治するかです」
私の横でレブが鼻息を噴出する。やる気も体調も万全。あとは私が失敗しないだけだ。
「受験するにあたって、条件が幾つかあります。まず、召喚士はこの場から動かずに指示を出す事」
「え……」
試験監督が最初の条件を提示した段階で一人、私やチコよりも数年先輩の召喚士であるマリタさんが困惑の声を洩らした。今回の受験者の中で私以外では唯一の女性召喚士だったので、移動中は何度か試験の手応えについてコソコソと話していたんだけど……。確か、実技の方はまだ少し不安があると言っていた。だからその分筆記に力を注いだそうだ。
「次に、召喚士自身の加勢は一切禁じます」
「………」
もう一つの条件に今度は私が胸元の首飾りを押さえる。それは、私の魔法を使う事が禁止という話だ。
これまでは何度もレブやカルディナさんのゴーレムを相手に魔法を使う時間を作って自分に慣らしていた。だけどその時間や成果を活かすのは今日ではない。いつか無駄にせずに済んだと思える時が来るまで、今は切り替えて挑む。
「質問」
そこにチコが軽く手を上げて試験監督を見ている。……今日の顔色は悪くない。痩せたみたいだけど前よりも精悍な顔付きになっていた。
「どうぞ」
「召喚士自身の、という事は召喚士が召喚陣で新たにインヴィタドを追加するのは可能って事ですよね」
チコからの質問に監督はすぐに頷いた。
「もちろん。小悪魔を多量に呼び出して戦おうとする召喚士もいましたからね。召喚士の魔力が続く限り、何体呼び出してもこちらは構いません。」
それはつまり、一体で勝てる相手ではないのかも。その時々、試験監督によって実技の傾向が変わってくるという情報しか私達は掴んでいない。
一人一人があらゆる状況に対応する為にそれぞれ違うインヴィタドを用意された事もある。またある時にゴーレム作りが得意な召喚士に特大のゴーレムを召喚させて受験者全員が力を合わせて戦った試験もあったそうだ。
「………」
私に必要なのは用心深さではない。今は自分の力を、レブを信じて、胸を張って誇る事。それが私達の力に替わる。
「受験者の資料を読みましたが、皆様方は全員が実際にビアヘロ退治を経験されている方達です。実績を考えれば合格を狙うのはそう難しくないと思います」
他の三人がどんなビアヘロと戦ってきたかは知らない。誰が倒したかではなく、どんなモノが倒されたかばかりを気にしていたから。どんな風に倒すのが有効かは筆記でも出題されていたが、誰が倒したかなんて歴史的問題は一切ない。
だけど試験監督は把握した上で私達にこれから実技を行わせる。だとしたら私とレブや、チコとフジタカの戦績も知っている筈だ。それでもアルコイリスは禁止されないのかな。様子を窺ってみたけど、特に何かを言われる気配は無い。
あとは、チコがどうしたいかを決めるだけだ。自分自身で挑むのか、すぐ隣にいる人狼の力を借りて戦うか。フジタカは手伝うつもりみたいだけど、まだチコの前に立とうとはしていない。




