絞れども、尽きさせられずに。
「レブ!打ち砕いて!……魔法は……使わない!」
「はぁぁぁぁ!」
その場に踏み込んでレブが一喝と共に拳を振り上げる。岩はそのままレブの姿を包み込む様にして押し潰した。
「……やり過ぎたか?」
「いいえ」
見た目はとても派手で、この位置からではあたかもレブが圧殺された様にすら見える。土煙が風に流されるのを見ながら私は首を横に振った。ライさんはさっきの注意もあったせいかそれ以上の追撃はしない。
「ぐ……!」
今度はトーロが胸を押さえた。恐らく自分の起こした魔法に何らかの意図しなかった事象が起きているから。
その時、私達の見ていた光景に変化が生じる。バキ、と音が聞こえるとトーロが魔法で出した岩から急に亀裂が走る。その溝はどんどんと蛇が地を這う様にジグザグを描きながら広がり、終いには私達の身長よりも高い岩の頂まで上っていた。
「ふん、ぬぅ!」
岩が真っ二つに割れて、中からレブが蹴り開けながら飛び出した。
「これだけやっても……」
レブは無傷だった。手足を引き摺る様子も見せずに悠然と岩の上で腕を組み、私達を見下ろしている。
「今ので全力か」
手足の短さはその分速度で補い詰めている。物理的に剣や斧で戦ったところで半端な鉄ではレブの肉へは届かないから、射程の差は利点になっている様で意味を成さない。
魔法でも同じだ。遠距離の相手を狙っても、その防護を貫くだけの威力を発揮できなければ隙が生まれるだけ。私が普段レブに感じている力の差をトーロやライさんも体で感じたらしい。未だに殺気を放つレブに次の攻撃を組み立てられていなかった。
それに、トーロやライさんだけではない。私にもレブに対して問題があった。
「ごめん、レブ!」
「私よりも自分や周りを見ろ」
レブに空中で旋回し、岩を弾き飛ばせようとした。しかしそれをレブは聞いてくれずに自ら浴びてしまう。
私が浅はかだった。その命令を聞かせたら、きっと炎の礫が今度は私達召喚士に降りかかる。それをレブは自分の判断で防いでくれた。
相手がレブだからこそできたことで、フジタカやトーロでは自分の身を盾にする戦法には限界がある。レブという相棒の力を私がどれだけ把握して、発揮させられるかがきっと試験では問われる。過信と頼るは別の話だ。私がレブに力を発揮させるにはもっと的確に、もっと素早く指示を出さないと。
「さぁ、続きだ!よもや私に仕掛けて、この程度で帰れるとは思うまいな……!」
不敵に笑う竜人を見上げる獣人二人が身構える。私も、彼らと召喚士二人がどの様な戦略を持って彼に挑むのか学ぶ。そして、それを上回るにはどうすれば良いかをレブと見付けていく。彼が今持っている力を活かす為に。
そして試験の日がやって来る。ここまでは、何も起きないままに。




