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小さなつづらに入った大きなドラゴン。

 「ある程度本気で戦わねば実戦で活かせないだろう」

 「それはそうだが、ライの場合はある程度の域を出ていた」

 「だからその木刀も折れたのではないか」

 ウーゴさんにレブも同意して続く。ライさんは牙を口の端から見せて木刀の破片を拾い上げた。

 「もうしばらく訓練を続けていたかったけど、これでは難しいわね……」

 カルディナさんも既に先程まで見せていた凛とした気を放つのを止めてしまっていた。ライさんは振り返ったが誰も顔を合わせない。

 「気にするな。実戦なら俺が負けていた」

 「………しかし、これでは」

 トーロがライさんの肩に手を乗せる。まだ納得できていないライさんの方へ一歩だけレブが寄った。

 「だったら訓練の内容を変更する」

 レブの宣言にカルディナさんとウーゴさんも足を止めた。私は冷や汗を浮かべてレブに詰め寄った。

 「勝手な事言わないでよ……!」

 「汗を流し足りない若者達に協力してやると言っている。もっとこの鍛錬を有意義にしたいのではないのか」

 だから、それを私やレブが勝手に決めちゃダメなんだってば……!

 「……何をどうすると言うのか?」

 ライさんは立ち上がってレブの前へと移動する。……やっぱりウーゴさんとカルディナさんは蚊帳の外にされていた。

 「私に向かって魔法を放て。竜人に傷一つでも負わせられれば、魔法使いに転職という手もあろう」

 顎の下に手を当てライさんが唸る。そこでやっと私達召喚士の方を向いた。

 「ウーゴ」

 「……ライの好きにすれば良い。だが、今度は」

 「あぁ、節度を持って、だな」

 頷いてライさんが握った自分の拳と拳とを打ち合わせる。

 「牛はどうする」

 「竜に挑む機会……。確かに、今までは無かったな」

 「トーロまでその気になって……」

 カルディナさんは肩を落としたけどトーロは既にやる気満々だった。

 「そして今度は貴様もだ」

 「……私?」

 レブは頷くと腕を組んで背中を向けながら離れていく。

 「そこから私に魔法を避ける指示を出せ。それが貴様向けの訓練だ」

 「……分かった!」

 急に言われても、悩まない。一緒になってレブを攻撃するよりも良い。

 「存分に撃ち込め。この私が立てなくなるくらいにな……!」

 手足と翼を広げて明らかな戦闘態勢をレブが見せる。その姿は私よりも背が低い筈なのに威圧感が逃げたくなるくらいに伝わってきた。あれが私の味方なんだ。

 「……遠慮はいらないな?」

 「私だって、レブに避ける様に指示を出す。全力でやってみて」

 トーロからの確認に私が承認する。大船に乗ったつもりとか、胸を借りるには狭いかもしれないけど……見た目は問題ではない。

 「大地よ!」

 「炎よ!」

 トーロとライさんの周りで魔力が高まっていくのが分かる。だけどレブに動く気配は無い。

 「………」

 「まさか……」

 本当に私が指示を出さないと動かない気なんだ。きっと実戦ではこんな機会はやってこない。だけど今の私にとってもこれは試練。自分に課せられた役割はこなさないと。でなければ……。

 「弾けろ!」

 「噴き出せ!」

 でなければ傷付くのはレブだ。トーロ達の大声には声量が負ける。

 「飛び上がって!レブ!」

 だけど彼の耳に私の声は届いている。だから安心して任せられた。

 「はぁ!」

 レブが翼を羽ばたかせて直上へ昇っていく。一拍も間を置かずにレブのいた足元が弾け、同時に高熱で熱され赤く輝いた岩が幾つも爆散した。

 「レブ、旋回してそれを……」

 「………」

 休んではいられない。すぐに次の指示を……。そう思っても叫んでもレブは何も反応せずに自分から燃える礫を浴びてしまう。

 「レブ!」

 「カルディナ!畳み掛ける!」

 私の横でトーロが足を踏み鳴らして全身の筋肉を膨らませた。

 「やりなさいトーロ!」

 「おぉぉぉ!」

 カルディナさんが胸を押さえる横でウーゴさんもライさんを見る。

 「ライ!まずは……」

 「落とせば良いのだろう!」

 息の合った掛け合いでライさんは手をレブへと向ける。

 「絡み落とせ……!」

 礫を浴びせられて体勢を崩したレブの周りが発火した。あっという間にレブは火だるまにされてあっさり落ちていく。

 「違う……。レブ!着地して!」

 あれは……傷を負わされて落ちたのではない。

 「………」

 「潰せぇぇぇぇ!」

 訓練の域を超えているのならば、今の状況も大概だ。トーロはレブが炎を消して着地した直後に魔法陣を展開して叫び、腕を売り下ろす。カルディナさんですら胸を押さえて前屈みになっていた。

 現れたのは私達に影を落とす程の巨大な岩石。それが突如宙空に出てきてレブをその周辺ごと狙う。

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