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力を御す精神。

 「ライ!後退だ!」

 「ちっ!」

 ウーゴさんの指示でライさんは後ろに跳ぶ。すぐにトーロの木刀が膝を掠める。それだけでもかなりの痛みだろうに、ライさんは顔色を変えずに構え直した。

 「トーロ、大丈夫なの?」

 「あぁ、腹にモロだが……ぺっ!まだまだだ!」

 トーロが赤みを帯びた唾を吐き捨て立ち上がる。カルディナさんは彼を心配しながらも目はライさんだけを見ている事に気付いた。

 「ライ、次は……」

 「任せておけ。こっちで済ませる」

 これが、召喚士がインヴィタドに指示を出すと言う事。そしてインヴィタドもそれをこなしている。

 スライムやゴーレムは命令をすると言うよりも自力で操作する感覚に近い……らしい。しかしトーロやライさんは自分自身の考えを持っており、私達の思った通りに動かない場合もある。

 だからこそ時に想像以上の働きを見せてくれる事もあり、私達を驚かせる。その誤差を少しでも埋める方法は一つ。自身のインヴィタドを知り、信頼関係を築く事だ。

 「……すごいっ」

 私にもチコにもできていなかった召喚士としての本領。自身が召喚した対象に指示を出して成果を上げる。まして互いの召喚士がぶつかり合っているのだからその光景は圧巻の一言だった。

 「まだ感心されるには早いだろう」

 「そうだぞ、ザナさん。俺も彼もまだまだ小手調べの段階だ」

 戦いながらトーロもライさんも私へ言葉を投げて寄越す。しかし互いに目線はかっちり合わせたまま。きっと逸らした時点で先手を取られるからだ。

 「ふ、小手調べしている内に足元を掬われるなよ」

 「安心してくれ、その前に叩けば話は済む」

 「言ったな!」

 先に飛び込んだのはトーロの方だった。ライさんは木刀を下段に構えて迎え撃つ。

 「トーロ!外さないで!」

 「分かって……いるぅぅぅ!」

 大上段から振り下ろされる木刀の速さは人間ではとても太刀打ちできない。しかしライさんは一瞬、絶好の間で溜めた木刀を振り抜く。

 「なにっ……!」

 木刀がぶつかる音の大きさに耳が痛む。トーロの渾身の一撃をライさんが互角の力で弾いた。

 「単純な力勝負では分が悪いかもな」

 互いに一歩離れてライさんは自分の手をぶらぶらと揺らした。痺れているらしいがトーロは畳み掛けない。

 「トーロ!今!」

 「……すまん」

 木刀を握ったままだがトーロは拳をぷるぷると震わせていた。ライさんと同じなんだ。すぐに挑もうにも、今飛び込んで木刀を狙われれば手から落として負けになる。蹴りや肉弾戦に持ち込もうにも武器は必携する決まりだ。

 「……ライ!」

 魔法は使用禁止。ならばどちらに勝つ気があって早く立ち直るか。ウーゴさんが名前を呼ぶだけで先に動いたのは、ライさんだった。

 「く、おぉぉぉぉ!」

 「な……!」

 ライさんが木刀を庇う様に肩からトーロに体当たり。後ろに吹き飛んだところにライさんは木刀を上へと振りかぶる。

 「防いで、トーロ!」

 「ライ、ここは一旦……!」

 「おぉぉぉぉぉお!」

 二人の召喚士が叫び、ライさんはトーロが防御姿勢で構えた木刀に自身の一撃を叩き込む。

 「……ふん」

 メキィ、と信じられない音が聞こえると同時にレブが跳び上がって腕を横に払った。その手には不自然な木の塊が握られ、あっさりポイと捨てられる。

 「あ……」

 振り抜いたライさんの木刀は切っ先部分がへし折られ消えていた。それをレブが恐らく持っていた……と言う事は。

 トーロの木刀は健在らしい。ライさんが放った攻撃で木刀が耐え切れずに折れた……ならばこの勝負は。

 「……そこまで!」

 「……お前の負けだよ、ライ」

 カルディナさんが止め、ウーゴさんがたしなめる。その先には息を荒げた雄獣人が二人。

 「はぁ……はぁ……」

 「………くっ!」

 ライさんが木刀を横に放り座り込む。トーロも堪らずにその場に屈んで肩で息をしていた。緊張の糸がすっかり切れてしまったらしい。カルディナさんとウーゴさんもすぐに二人に駆け寄った。

 「大丈夫、二人とも……」

 「怪我はほとんどない」

 怪我をしているとしたらトーロの方だろうけどそれは平気そう。ライさんも頷くだけだった。

 「ライ、あそこで加減せずに無理をしたらどうなるか分からなかったか?」

 「……すまない。俺とした事が」

 そう、勝負を決したのはライさんがウーゴさんの指示を最後まで聞かないで突っ走った事にある様に見えた。無理を推してでも仕掛けた結果がライさんの木刀だった。

 「それに、ライの全力でトーロさんの木刀が折れていたら……脳天に直撃だった」

 「考えると恐ろしいな……」

 トーロが頭を押さえて唸る。その後に広がる光景は想像もしたくないよ。

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