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捨て身なのは一人ではない。

 「だったらその手はどの様に説明する」

 「手?」

 レブが指差したのは私の手だった。言われて見下ろしてから気付く。

 皮が剥け、滲む血の量は私が思っていた以上に多い。見下ろすとほとんど同時につう、と滴り落ちてしまった。怪我の様子を見てやっとひりひりと痛み出す。

 「これが実戦だったら貴様の肘は折れ、手が吹き飛んでいてもおかしくないぞ」

 「あ……」

 そうだ、本当に相手が問答無用で襲って来て私が今の様に対処したら負けていた。この程度で済んでいるのはカルディナさんの加減もあったから。

 「肉を切らせて骨を断つ様な真似を許容できる肉体か」

 「……ごめん」

 痛くて手を握り締められない。ニクス様の羽は持ってきているからしばらく巻いておこう。今回は良くても連戦になれば同じ手はもう使えない。

 「あの戦い方を実戦で使うのなら、触れる前に放て。全力でな」

 「触れなきゃ感電させられないよ」

 レブは首を横に振る。

 「その魔法は本来、音よりも早く相手を灼き射貫くモノだ。感電とは雷撃の副産物であり、その効果を主軸に組み立てるものではない」

 灼き射貫くという表現は見た事がある。そう、あれはテルセロさんの家周辺を飛び回るインペットをレブが葬った時。次々火だるまになったインペットが墜落していった。

 あの時私もインペットを一匹倒した。でも咄嗟に焼け、と命じたのに魔法はそこまで至らせなかった。これではレブの使った魔法と同じとは言えない。

 「分かってはいる……のかな」

 反射的に唱えたのは本質の焼く方、そして破壊する方だった。知ったかぶりにはしたくないからもっと学ぼう。

 「自分の力を恐れるな。私からはそれだけだ」

 レブが背中を向けて引き返す。カルディナさんとトーロはそんなレブを黙って見ていた。

 「カルディナさん、これから訓練なのにこんな事までお願いしてすみませんでした」

 「いいえ、私は構いません。魔力の鍛錬ではないから」

 ゴーレムを召喚した後でもカルディナさんは顔色一つ変えていない。持っている魔力の量が違い過ぎるんだ。

 「あとは私が……」

 「あの、ゴーレム二体に同時に風穴開けたりする相手に挑むつもりはありません」

 「つまらぬな」

 確かに今のレブを相手にするゴーレムと言えば、あの時のタロスや専属契約で限界を引き延ばしたゴーレムぐらい。カルディナさんも用意するだけ無駄と思っている。

 「やっと来たか」

 トーロが訓練場の向こうを見て木刀の柄を握る。レブには悪いがここからは見学だけにしてもらう。

 「お待たせした」

 「良い退屈しのぎをしていた。気にする事はない」

 やって来たライさんが遅れた事に頭を下げる。トーロは気にした様子を見せずに木刀を肩に乗せた。

 「とりあえず最初は様子見で?」

 「そうしましょう」

 後ろにいたウーゴさんとカルディナさんのやり取りも短く済んで二人のインヴィタドがそれぞれ距離を取る。

 「相手を降参させるか武器の破壊、もしくは奪取が勝利条件です。魔法の使用は不可とします」

 「それでは、はじめ!」

 カルディナさんの説明、そしてウーゴさんの号令でトーロとライさんがそれぞれ木刀を握って走り出した。

 「おぉぉぉぉ!」

 「おぁぁぁぁ!」

 両手で構えるライさんは普段から剣を扱う。その一方片手斧を複数本扱うトーロは片腕での戦いに慣れていた。両手で持った武器の構えにはライさんの方に分がある。

 「あぁぁぁぁぁぁ!」

 「ぐっ……!」

 しかし実際はトーロが補うだけの腕力でライさんを圧していた。気合いと共にその隆々たる筋肉を膨らませて鎧姿のライさんを捻じ伏せる。

 「がぁ!」

 木刀を振り抜きよろめいたライさんの肩をトーロが殴り付ける。そのまま仰向けにライさんは倒れたが木刀は手から離さない。

 「そこだぁぁ!」

 「まだだ!」

 トーロが木刀を振り上げた。しかしライさんは振り下ろされる前に足を払う。それを見越したトーロは跳んで躱したがライさんは目を光らせた。仕掛けてくるとすぐに分かる。

 「ふんっ!」

 「うあ……かはぁっ!」

 ライさんは腕で自分の体を支えてもう一本の足をトーロの腹に突き込んだ。軽装だったのが仇になってトーロは空中で無防備なまま蹴りの直撃を浴びる。いかに強靭な肉体でも唾を吐き散らし、腹を押さえてトーロはうずくまった。

 「ぐ……」

 「はぁぁ!」

 「トーロ!右に倒れなさい!」

 立場が逆転しライさんの木刀が迫る。そこに響いたのはカルディナさんの声であり、トーロの耳も跳ねて右へ転がるように倒れた。ギリギリのところで木刀は地面を抉るのみ。

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