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意気込む未熟な果実。

 チコは髪の毛を掻いて頭をぼさぼさにする。籠り切りだったのかな、若干髪が軋んでみえた。

 「……何か言ってたか?」

 頭から手を抜き、その手を見下ろしてチコが尋ねた。

 「タロスと戦って、またセルヴァの皆に会いたいと思ったんだって」

 「………」

 そう思わせたのは決してチコ一人のせいとは言えない。だけど、そう思わせずに済ませる方法は……あったのかもしれない。

 「そうか」

 そう、ただそれだけ。もしもはもう、起きない。

 「でも俺はもう……止まらない。絶対召喚士になって、アイツの鼻を明かす」

 アイツ、とはフジタカの事ではない。チコを笑ったあの男だ。

 「腐るだけではなかったか」

 落ち込みはしたものの、前に進もうとしているチコは吹っ切れて見えた。あとはその疲れた顔をどうするかが問題。

 「休憩もしたら?」

 「言っただろ。俺は……お前が勉強していた間も怠けてたんだ。休んでちゃ……追い付けないし、追い越せない」

 召喚士試験は誰かを蹴落として合格する様な試験ではない。しかしチコが合格基準に私を据えているのなら、受けて立つ。

 「だったら余計に休むのも大事だよ。明日が試験じゃない。自分に足りないのは本当に全部なのか確認してみたら?」

 少し突き放す言い方だったかな。でも、見詰め直す時間って大事だよ。

 「……そう、だな」

 チコは再び頭をバリバリと掻く。

 「少し体が痒いし臭い気がする。……片付けながら自分の弱点を確認して、ひと眠りしたらそいつから潰すかな」

 「うん。腹ごしらえもしときなよ」

 「あ……」

 お腹が空いていたら発揮できる力も十分ではなくなる。私の一言を聞いて急にチコは自分の机を見た。

 「………」

 紙を一枚退かすと、出てきたのはリンゴが丸ごと一個。どこかで見た気がして私は思い当たる事を口にした。

 「……最近、フジタカと話した?」

 彼の名前を出すとチコは肩を跳ねさせてからこちらを向いた。

 「ん……なんか、働いてるんだってな」

 本人と話したかは分からないけど把握はしているんだ。それだけでも私は安心できる。

 「これ、アイツがくれたんだよ。急に部屋開けて、ほらって言って」

 言ってリンゴを持ち上げて色んな角度から見回す。特に傷んでいる様には見えないがフジタカがリンゴを持ち歩いていたのってしばらく前だったと思う。

 「フジタカと受験するって思っていいのかな」

 「だとしたら?」

 「ううん」

 チコも気にしているんだ。フジタカと向き合う機会を増やさないといけないのと、頼るのは減らさないといけない事を。

 「……俺もアイツも、自分の立ち位置を確立しなけりゃならない。その為に組むんだ」

 リンゴを見詰めても食べようとはしない。……私達がいたら食べにくいかな。

 「戻るぞ」

 「うん」

 目を合わせるとすぐにレブが考えていた事を先に口に出してくれる。

 「じゃあチコ、頑張って」

 「……お前も、な」

 柄にもない事を言ってチコは照れたのか少し顔が赤かった。勉強し過ぎの知恵熱でなければいいんだけど。

 自室に戻ってようやく今日を振り返る。最後の魔力放出もレブに言われた通り、一度溜めてから放った時の威力とは全く別物と言っても良かった。勢いに圧倒されて尻餅をつく様では実用性は無い。自分が制御できる内でどれだけ強力なものにするか。それが今の私における魔法の課題だった。

 「ソニアさんもチコも、フジタカも頑張ってる」

 「私は普段と変わらない」

 ベッドに仰向けになっていた私にレブが声を掛ける。レブも頑張っていると言うのは違うが、見た目は少しずつ変わっている……気がした。

 「相変わらず私の魔法を受けてもピンピンしているもんね」

 自分に自信を持てない理由ってレブを相手にしているからじゃないかな。幾ら私が魔力を溜めたり放出し続けても、レブの反応が変わらないんだもん。

 もちろん何か変化があれば気付いて指摘や褒めてくれる。だけどしっかりとした実感が返ってこない。自分の捉え方次第だとは思う。

 「紫竜を相手にその程度の魔法で挑み続ける勇気、それは称賛されても良いと思うが」

 「悪かったね、その程度で……」

 冗談なのか本気なのか……後者なんだろうな。自分を変えるにはどうしたら良いんだろう。

 少し考えていた事がある。それは、レブ以外を相手にする事。私が何か的を用意してそれに対して攻撃を魔法で加える。実戦的でアリだと思ったけどすぐに計画は座礁した。

 レブ相手にならともかく、他に雷撃に耐性を持つ存在がなかった。そしていたとしても、私に用意できない。まして召喚なんてもっての外だった。

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