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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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一人になっちゃった。

 「契約者の力とは、才能有る者への魔力線の解放だ。私の居た世界にも契約者は遠い昔に現れた。だが、竜たる我々が契約者を頼る事など無い」

 契約者の必要ない世界。……フジタカの世界にも魔法なんてない。でも、魔法という言葉を知っていた。もしかしたら彼の世界にも魔法なんていらないのかな。

 「魔法は誰でも使えたから?」

 「そうだ。だから淘汰された。そんな存在がこの世界では魔法使いと共に行動し、奉られているのだからな。最初は冗談と思った」

 冗談……。ニクス様の表情を思い出しても、何を信じれば良いのだろう。

 「……付け加えるが」

 レブの語りに言葉を失うと、彼は咳払いをして私を見上げた。しまった、考え込むのは悪い癖と言われたばかりなのに。

 「召喚術はこの境界が壊れた世界には必要な力だ」

 「……うん」

 「私の世界で契約者は追い出されてしまったが、この世界では受け入れられている。……それで良いのだろう。よく知る機会でもあるからな」

 レブは目を逸らして、町の通りへ顔を向けた。……否定や拒否をする気はない、って事かな。

 「レブ、もしかして励ましてくれた?」

 「ぶ……!?」

 解釈を少し都合良くして聞いてみる。するとレブは吹き出し、私へ完全に背中を向けてしまう。

 「誰に感謝し、協働するのも貴様の勝手だが……。それが周りでも当たり前と思うなよ」

 ……契約者が目的意識を持って活動している。その目的とは何かなんて考えた事もなかった。そういう職業、と言っても本質は別にあるのが常だ。

 例えば料理人も、料理を作って収入を得るために働く。だが、どうしてその職業を選んだか。作った料理を人に食べてもらいたいから、美味しいという一言が聞きたいから、なんて人によって違ってもきっと理由が何かある。

 私には契約者が遠く、召喚術を広める偉大な存在としか思っていなかった。考え込むなと言われても、考えは足りていない。そんな私ができる事は、口に出す事だ。

 「信用する相手は選べ、って事だ?」

 「……。そう言う事だな」

 レブの首だけが少し振り向いて答える。表情はよく見えないが、そのままレブは通りへ向かって歩き出す。

 「あれ、出掛けちゃうの?」

 「外出予定はあるまい。何かあれば召喚陣へ念じるでもして呼び出せ」

 一人になりたい、のかな。もしかして変な解釈したから機嫌を悪くしたとか。

 「……お小遣い、要る?」

 「……要る」

 ブドウを買えるだけの硬貨を財布から取り出して握らせるとレブは歩いて行ってしまう。普段なら、貴様も来るか?とか一言くらいありそうなのに。

 「どうしよう……」

 予期せず、一人になってしまった。一緒に居ても雑談しかしてないのに、急に風を冷たく感じてトロノ支所の中へ入る。

 用事は無いけど、二人で過ごせば時間は潰れた。全てが有意義かと言えば、ブドウの食べ過ぎに注意したりとか掃除の雑さに叱られたりとか取り留めもない時も多い。今日は来週以降の予定の組み立てをしようと思っていた。それもレブ抜きで決めたらちょっと怒りそう。

 ……取り決めは戻ってきてからにするとしてそれまでをどう過ごそう。チコとフジタカは訓練場で実戦訓練中。エマ達も召喚学の講義の途中だし。

 「あ」

 したい事、見付かったかも。もし駄目でも、その時は部屋で自習にしよう。



 私は寮の部屋に向かいそうになっていた足を引き返す。向かった先はある小さな研究室。

 「失礼します」

 扉を三度、叩いて開くと鍵は開いていた。施錠されていないなら、誰かはいる筈だ。

 入った部屋は少し日当たりが悪くかび臭い。けど、本棚に敷き詰められた本の匂いと相まってそこまで気にはならない。開けられた窓から入る風に流されて微かに香る程度、逆に居心地は良いと思う。

 「お嬢様……!どうされたのですか!」

 出迎えてくれたのはティラドルさんだった。他に人影は見当たらない。

 「こんにちは、ティラドルさん。……ソニアさんはいないの?」

 私が聞くとティラドルさんは手に持っていた本を閉じて机に置くと頷いた。

 「はい。先刻、カルディナとトーロが戻ったと聞き付けて会いに行きました。ついさっきまでいたのですが……」

 そう言えば、初めて私がここへ来た日もソニアさんはカルディナさんと会っている。出迎えるのが習慣になっているのかな。

 「何かご用件でも?急ぎでなければ言伝し、戻り次第お嬢様の部屋へ向かわせますが」

 急ぎならすぐに捕まえてきます、と言うティラドルさんに笑って違うと答えた。

 「ううん、用事があるのはティラドルさんにだったんだ」

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