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零れ落ちる成果。

 「ザナは……まだ戦うの?」

 「うん……」

 自分でも迷わないで答えられた。その次の言葉が思い付かないのに、それだけは間違いなく言える。

 例えこの身がどうなろうとも、きっと召喚士で在ろうとする……と思う。ルビーの話を聞きながらもその思いが自然に強くなっていた。

 すると、ルビーが私を抱き締めた。腕に回した力はとても強く、彼女の体温が直に伝わってくる。

 「ごめんね、ザナ……ごめんね……!」

 「いいんだよ、ルビー……」

 声を震わせて泣くルビーの背中をそっととんとんと叩いてやる。小さい子が泣いているとルビーはこうして泣き止ませていたから。

 「元気でね。私は召喚士になる。ルビーの分まで戦って、きっとまたセルヴァにも帰るから」

 私にとってもセルヴァは大事な場所だ。私にあの地を、あの地で笑って暮らしている皆を守れる力が使えるのなら、全力で振るいたい。

 「うん、待ってるから……!」

 涙に濡れて酷い顔だった。だけど私も少し涙が出そうになって鼻をすする。

 馬車が出るから見送りはいらない、と言われた私はルビーの背中を立ち止まって見詰めていた。彼女はもう振り返ってくれる事はなかった。

 「遅かったな」

 「うん」

 部屋に戻る頃には体がすっかり冷え切っていた。レブは椅子から降りていたけど、私が帰るとすぐに座り直した。

 「何かしていたのか」

 「はぁ……」

 自然と溜め息が出て、私はベッドに腰掛けた。

 「セルヴァに戻ったり、アルパ近くでタロスと戦った時に一緒だったルビーって子を覚えてる?あの子がね、召喚士を辞めるって言って出て行っちゃったの」

 忘れているわけもなく、レブは頷き、話の続きを催促してくれる。

 「止めようとはしたんだ。だけど……もう間に合わなかった。気付いてあげられなかった自分が情けなくて」

 「恥じるな」

 レブに言われて顔を上げる。

 「悩んだ末の決断は易々とは覆らない。貴様が幾ら優しくしたところで、変えられたと思うのか」

 「………」

 思えないんだ。だったら……もっと前に気付いてあげられたとしても変えられない。

 「貴様はあの娘が何に挫けたか知っている。だから無理には止めなかった」

 「……そうかも」

 何も知らずに、無責任なままこのまま一緒に戦っていこうなんて言えないんだ。半端にでも共感できてしまうから。

 今はビアヘロだけではなく、フエンテなんて別の脅威もすぐ近くに潜んでいる。だからこそ私は強制なんてしたくない。

 「でも私は辞めないよ」

 「知っている」

 レブはそれを聞きたかったとでも言いたそうに小さく頭を縦に振って目を閉じた。

 魔法の練習もその日から改めて始めた。別に試験に活かそうと思っての事ではなく、自分なりの訓練だった。戦士が体を鍛えるのと同じ、術士が基礎魔力を高めたいと思うだけの事だった。

 ルビーとの約束もある。私が自分で誰かの力になってあげたい。その気持ちを胸にしていた私へレブは何も言わずに訓練に付き合ってくれた。

 「ふむ……」

 「はぁ……はぁ……」

 一日の終わりに私はレブにその日のうちに残った魔力をぶつけている。時に持続性だったり、日によっては一撃に全て籠めてみたり。あの手この手を使っているがレブを唸らせるには至らない。

 「今日はこれくらいにしておくか」

 「まだ……」

 今日は低出力で雷撃を放出し続けた。それが途切れて膝をついた私の前にレブが立つ。

 「休んで溜めるのも時には必要だろう」

 「う……」

 言われてみればそうなのかな。……魔力が尽きてもレブは自力で魔力を生成できるようになっているから、存在自体を維持できない事はないいだろうけど……。

 「以前よりは発動限界時間が伸びている。それは自覚しているだろう」

 それでも秒単位だけどね……。と、答えるのも難しいくらいに息が続かない。滲む汗を拭ってまずは呼吸を整えるところから私は始めた。

 「ふぅ……ふぅ……」

 「果糖は」

 「欲しいけどこの時間じゃやってませーん……」

 レブの提案に今回は乗りたくてもこんな夜にルナおばさんが店を開いているわけがない。先に買っていたらともかく、今日は水でも飲んで寝よう。訓練場からトロノ支所に戻るまで歩けるかな……。

 派手に動き回るでもないのに、こんなに汗だくになってしまった。このまま放っておいたら風邪をひくかも。そう思っていると不意に背後から足音が近付いてきた。私は咄嗟に顔を上げたけど、レブは警戒する様子を見せない。それどころか腕を組んで相手が来るのを待っているみたいだった。

 「こんな時間に外を徘徊とはな」

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