煽られた情熱の炎。
「でも今日からは堂々と外に出れるね。籠ってばかりはいられないもん」
ベッドに座るとレブの顔がよく見える。表情はそんなにはっきり浮かべていない。
「やっと二人きりになれたな」
「な、な……!」
なのに、あっさりと爆弾発言を投げて寄越す。ちょっとの事では驚くまいと思っていた自分が甘かった。
「……もう。それじゃフジタカが邪魔者だよ」
「理由はあれど、二人の時間を割かせたのは犬ころだ」
そんな事言わなくても私の気持ちは動かないのに……って!
「え……っ!?」
「……一人でなんだ」
変な事を考えてなかったかな、私……。影響を受けてるというか。
「ご、ごめん。何でもない……」
この気持ちが少しずつせり上がってくる。それを伝えたら……私は自分に厳しくできなくなる気がした。
その結果レブを傷付けてしまうかもしれない。今だって待たせてしまっているのに。
「……困らせたなら、詫びないでもないぞ」
レブは私を信じてこんな事を言ってくれる。胸の温かさに堪らなく抱き締めたくなる。
「困るわけないでしょ」
代わりに鱗の首飾りを握り締める。
「私は立派な召喚士になるんだから。レブとの時間は大事にしたいよ」
「召喚士として、か」
説得力の無い私の宣言でもレブは笑わない。
「立派な召喚士としてもだし……一人の女性としても、かな」
言ってしまってから私は窓の外へ目を向ける。夕陽はもうすぐ地平線の奥へ消えようとしているというのに、こんなにも眩しい。
自分をもう一段階先へ引き上げる方法をやっと思い付いたんだ。それは一つとは限らない。浄戒召喚士になると同時に子どもから大人へと自分を変える。それが今の私の目標。
レブと強くなる。そしてその先に二人で過ごせたら……。自然と願う様になっていた私を彼は……。
「………」
呆然と見詰めていた。
「だ、だから!これからは二人だよ。レブがわざわざ言わなくても!」
「……そうだな」
きっと貴方は私とのひと時を大事にしてくれている。でも、そんな彼にも足りない物があった。
「あ……レブの敷布団も買えばよかったかな?」
買い出しに行ったのに気が回らなかった。要らないにしても確認もしなかった自分が……。
「言っただろう。私は使わないぞ」
「もう……」
一度決めたら頑固というか……。
「そもそもどうして使わないの?贅沢は敵、とか?」
暮らしを豊かにする技術なんて召喚試験士達が今日も積極的に取り入れたがっているのに。たまにいる逆行したい趣味……フジタカならなんて表現するんだったかな。バンカラ?
「違う」
「じゃあなんでさ」
レブの一睨みに私はベッドに倒れ込む。ほら、こんなにも心地好い。
「褥は……。共にする日まで貴様に温めていてほしいからだ」
「ちょっ……!」
またそんな事を言って……!私がガバッと身を起こして睨むとレブの方が怯んだ様に顔を背ける。
「理由は語った。それでもまだ与える気か」
「……好きにして」
一気に疲れてしまった。もちろん、今から好きにして良いというつもりでは言っていないし、レブも分かっているからそのまま動かない。枕に頭を押し付け私は彼を見る。少しだけ仮眠したら夕食を摂って、召喚士試験の勉強を始めよう……。
「そうさせてもらおう。私の召喚士よ」
……それを承知したのは私。意味も分かった上で君に布団を与えない私の傍にこのまま居てくれると言うのなら、きっとこれ以上頼もしい相棒は他にいない。
一生かかっても、きっともう、出会えない。




