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岐路に立って。

 簡単に自己紹介を終えるとセシリノさんは髭を撫でながらライさんを見上げる。カンポからの来客が珍しいのだろう、よく二人を観察したがっている様だった。

 「フジタカ君やトーロもよく世話になっていると聞きます。できれば、俺達も厄介になれたらと」

 「それは歓迎だ。異世界の鉄を打って誰かの役に立てられるんだったらな」

 セシリノさんもポルさんも商売よりは相手の力になりたい気持ちが強そうに見える。フジタカはアルコイリスから始まってずっとお世話になっているし。

 だからミゲルさんやリッチさんと繋がりがあると聞いた時は意外だったけど納得もしている。あの人達も商売第一ではないし。……でもだったら一番は何だろう?お客様なのか、自分達が楽しむ事か。トロノにはもういないみたいだけどまた会ったら聞いてみよう。

 「そんでフジタカよ、ニエブライリスの調子はどうでい?」

 「ニエブライリス……?」

 セシリノさんに続いてライさんもフジタカに向き直る。

 「はは……この前タロス、ってのと戦ったけど実はまだ使ってない……」

 「なにしてんだよ、お前は……」

 使うまでもない相手だった……なんて、フジタカだから言えるんだよね。セシリノさんも今のフジタカがどういう状態かは知っているからそれ以上は言わない。

 「切れ味は良さそうなんだけどな」

 「良さそうじゃねぇ。良いんだよっ!」

 セシリノさんの自信作だから早く使ってほしいんだよね。

 「お前のアルコイリスと合わせれば無敵だってのに……」

 「興味深い話ですね」

 ライさんも二人の会話に入り込む。フジタカは苦笑してナイフを取り出した。

 「これを取り付けて剣にするんです。ただ、今の俺じゃ力の調整ができなくて……剣だけ消してしまいそうで使えないんです」

 「それがニエブライリス……か」

 寮に戻ったら見たいって言い出すかな。……でも、ライさんから見たらただの少し変わった形の剣に過ぎないと思う。だからフジタカ専用なんだ。

 「アンタもまた来なよ。ポルが気に入れば、放っておいても勝手に装備を新調してくれるぜ」

 「是非」

 ライさんとセシリノさんの相性は見ている分には良さそうだった。ポルさんは夜まで戻らないとの事だったので私達は寮へと戻った。

 「今日は助かりました……。やはり、トロノ支所内で調達するには限度がありましたから」

 「何事も無くて良かったです」

 予算が足りないとか、アレが買えなかったとか。……あとは、何かが突然現れなかった、とか。

 「召喚士の試験、日程が決まったら教えてほしい。協力は惜しまないからね」

 「ありがとうございます、ライさん」

 ルナおばさんの前で見せた沈黙は嘘の様にライさんは朗らかだった。私も部屋の前で軽く頭を下げてから自室へと向かう。

 「じゃ、俺はこっちだから」

 「あぁそうか。もう違う部屋だもんね」

 突然足を止めたフジタカに気付いて振り返る。普通に今日もフジタカを連れて戻るところだった。

 「今まで世話になったな。……って、まるでお別れみたいな表現だけど」

 「そうだよ。また明日、だよ」

 フジタカは短く笑って頷く。やっと、自然な彼の笑顔に戻りつつあると思えた。

 「そうだよな」

 「また何かあったら言って」

 「俺もある程度身の振り方は考えてる。でも、何かの時は頼むよ」

 勝手にいなくなる様な真似はしないでほしい。そこまで思い詰めさせない様に私達も気を配るし。

 「そんじゃ、またな」

 「うん」

 そしてフジタカは小さな自分の居場所へと向かっていった。私とレブも少しの荷物を抱えながら部屋へと戻る。

 「……ふう」

 自室はそれだけで自分の安全が保障されている空間の様な気がする。そこに戻れた事で今まで張っていた気が解れ、緊張感が安心感へと代替される。だからこそ息を詰めていた間から解放された瞬間の空気が美味しく感じられた。

 「えーと……」

 買ってきたインクや収納用の小箱を並べる。これらも片付けるのではなく部屋の一部として溶け込むと思えば、ちょっと表情が緩んだ。

 こんなものかな、と振り返ると夕陽が窓から差し込んできていた。肌寒くなって日照時間が短くなってきたと感じたけど、それ以上にしみじみと思う事があった。

 「静か、だね」

 「………」

 フジタカがいなくなっただけなんだけどな。それにフジタカだって四六時中ずっと口を開いていたわけじゃない。黙っていた時間の方がずっと長かったと思うくらいだ。

 レブは何も言わないでただ椅子に座り、私を見ていた。逆光でよく見えないが視線はずっと感じている。

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