レブと契約者。
「して、用件は?」
「なに、珍しい男がいたから声を掛けたくなっただけだ」
見た目は確かに珍しい。ビアヘロとしても人型は獣人が大半、次いで爬虫人、からの鳥人だ。私は今も鳥人はニクス様しか知らない。
「………」
鳥人の嘴にはやはり表情が現れない。その代わりに目が物を言うと思い、その目を見るが深い青の瞳からは少なくとも、親しみを感じない。
「あ、あの……!」
「うん?」
だから私から話し掛けた。レブに用事がないなら、私から。
「私、ニクス様から力を授けてもらえたから召喚士になれました。本当に、本当にありがとうございました」
「………」
ニクス様の表情は変わらない。だけど私は、セルヴァを出る時……ううん、召喚士になったあの日からずっとお礼を言いたかった。結局機会を逃して今日まで言えなかったけど。
「だから、私はここに居る事ができています。ニクス様が与えて下さった力で召喚した、レブも一緒です」
「契約者に与えられた力ではない。私を召喚したのは誰でもない、貴様の力だ」
レブが強く言った。少し声を大きくしたから私はレブを見たけど、本人はこちらを見ない。目線の先にいるのはニクス様だけだった。
そんなレブの目線を受け止め、少し首を動かすとニクス様と目が合う。一度頷くとニクス様は少し目を細めた。
「礼を言われるのはいつも、契約をした時。その大半が契約した本人ではなく、その親や身近な別人だった」
魔力線を開く契約の儀式を行うのはほとんどが幼い頃の話だ。だからニクス様が言っている事も分かる気がする。
「まさかこんな若い、召喚士になりたての娘から礼を言われる日が来るとは」
「そうなんですか?」
そもそも、契約者に会う事が少ないから、かな……。普通に生きていても五年に一度会うかどうかだし。
「自分の力にわざわざ礼を述べる事はあるまい?」
「……自分の、力」
今の私の力って何だろう。でも、少し違う。
「レブも私の力なら、私はレブにお礼を言いました。……これからも、言う事になると思います」
「………」
レブがやっとニクス様から目線を外して私を見てくれた。少し情けないししっかりしないといけないけど私の横にいてくれる。それだけでも感謝してもし切れない。
「……召喚士に恵まれたな、異界の武王」
「あぁ、私には勿体無い程だ」
「ふふ……」
表情を崩さなかったニクス様が、微かにだが声を出して笑った。レブも口を曲げるだけで笑みを表す。
「また話そう。……いや、話してみたい。お二人とな」
「構わん。機会は必ず設けよう」
言って、ニクス様はゆっくりと歩き出してトロノ支所の中へと入っていく。
「良かったの?」
「話す機会は作ると宣言したからな」
最初は喧嘩腰というか、噛み付くんじゃないかとハラハラしていた。でも、妙な距離感というか意外に険悪じゃなかった。
「……レブは契約者を知っているの?」
初めてレブに会った日を思い出す。契約者を見て、最初は楽しそうに笑ったんだった。当然、ニクス様と面識があったわけじゃないと思う。
「そもそも契約者は、世界毎に存在する」
「……うん」
それは何となく想像できていた。私の推測はせいぜい、契約者の世界があって、そこからやって来てるくらい。見た目からしてこの世界の住人ではないしね。
「契約者はその訪れた世界毎に役割を変える。時に火を操れるように、時には何もない空間から水を生めるようにし、また時に人へ異世界から異形を召喚する力を与える」
「え……」
レブのいた世界にも契約者はいた。だけどレブの世界の契約者とここの契約者にできる契約は違う。じゃあ、他の世界の人は召喚魔法を使えない……?
「契約者の厄介な事を教えよう。奴らはな、目的を持って動いているわけではない。使命感や大義名分もない」
「……じゃあ、なんで?」
レブが鼻を鳴らして笑う。
「できるからだ。ただ自分にできるから、やっているに過ぎない。できた結果について考えるのは二の次以下だ」
「そんな……」
「そう。やってみただけ、という考えのやつに礼を言う筋合いなんて無い」
私が今まで抱いていた理想を現実にする力。それを与えてくれた相手は、私達に何を託すでもなく、力を配っていた……だけ?




