談判成立。
こちらからは名乗らないが、一般人にとっての召喚士の認識がそのまま浄戒召喚士という事で間違いない。簡単に言えば、一人前の召喚士になれと言われたんだ。
立派な召喚士になって出直せ、と先日言われたばかり。試験で力を示すのが近道なら挑めば良い。
「どう?召喚士になって一年も経っていない子に言うのは気が引けるんだけど」
「やります!」
私は食い気味に迷う事無く答えた。返答を予測していたのかブラス所長は苦笑しながら頬を掻く。
「形式に捕らわれてる、って思うかい?」
「……いえ。私の方も、自分の都合ばかり押し付けてましたから」
言われるまで、いかに自分が勝手な話をしていたかが分かっていなかった。レブがいるから、自分が特待生だから、契約者と行動してた事があるから。ニクス様の力になりたくて、ココを失ったから。だから……またフエンテとの戦いに参加するのは当然。そう思って疑わなかった。
止められる筈がない、というのが私の考え。しかし所長の立場になって考えればきっと止める必要もあったんだ。私が未熟だと思われているから。
「楽しみにはしているんだ。君達、活躍が止まらないからね」
「応えて見せます、全力で」
いい加減、私が次の段階に至らないといけない。今回のチコと同じ、何かの拍子にレブがいない時に召喚士として無力ではいられないのだから。召喚ができないのなら、私に使える魔法を磨く。もう黙って見送るなんて事は選べない。
「頼もしいね。試験の日程は追って伝えるよ」
「はい!」
最後に所長が私の横に座る二人を見た。
「ザナ君は了承したけど、これでよろしいですかな?」
「はい」
ウーゴさんはすぐに返事をくれた。
「………」
しかしライさんは思い詰めた様に所長の足元の方を見ていた。
「ライ?」
私達も気付いて、ウーゴさんが声を掛ける。そこでハッとしたライさんは頷いてくれる。
「あ、あぁ。だったら、俺はザナさんの召喚士試験を合格できる様に応援するよ」
「よろしくお願いします、ライさん」
ライさんが指南してくれるなら、厳しい部分はあるかもしれないけど自分自身の成長に繋がると思う。そこで私達は解散する事になった。
もちろんフジタカの部屋の事は忘れていない。今回のタロス討伐の実績も加味して、使わなくなった小部屋を貸してもらえる事になった。少し狭いかも、と言われたけど私物は剣とナイフと着替えくらいだからそこまで場所は取らないと思う。
「ウーゴさんも浄戒召喚士なんですよね?」
「えぇ、まぁ」
部屋を出るとすぐに私は二人に向き直った。契約者と同行する為に特別な資格が他に必要という話は特に聞かない。敢えては聞かなかったけど、召喚士見習いではないのなら大体は浄戒召喚士だろう。その予測は当たっていたらしく、ウーゴさんは張っていた肩を少し下げた。
「カンポは召喚士用の施設が少ないですからね。ほぼ自営業かフェルト支所が管轄していたんです」
「拠点が幾つもあっても使う人がいないからな」
だからフェルト支所だけでしか召喚士を見なかったんだ。
「それにしてもザナさん。大丈夫ですか?あんな簡単に浄戒召喚士になると答えてしまって」
ウーゴさんが目尻を下げて私の顔を見る。そう易々と突破できる試験ではないのは知っている。だから所長も諦めがつく様にあの条件を出したのだと思う。でも、私にだって頑張りたい理由がある。
「自分がやりたい事を、ライさんも推してくれたんです。だから私も甘えて引っ張り上げてもらうだけじゃなくて、自分から飛び出したいと思えました」
「素晴らしいと思うよ」
ライさんは表情を穏やかにして笑みを浮かべる。
「本当は無条件でニクス様と同行させたかったが……」
「そう上手くはいきませんね」
「あぁ。でも、俺の力が必要な時はすぐに呼んでくれ」
そこでウーゴさんやライさんと以前交わした約束を思い出す。
「そうだ!まだトロノの町を案内していませんでしたよね。明日とかご都合どうですか?」
そこで二人は顔を見合わせる。
「いいのですか?」
「はい。以前、フェルトを案内してもらったお礼ですし。私も欲しい備品があるので」
試験には召喚術に使う触媒の話も出る。それを実際に購入してみるのも良い勉強だ。それと合わせてウーゴさんやライさんに見せれば教えてもらえることもいっぱいあると思う。
「では、お願いしようかな」
「任せてください」
力強く返事をして見せ、私はすぐにレブとフジタカの待つ部屋へと戻る。明日は朝にウーゴさん達の部屋へ迎えに行く事になった。




