認める勇気。
「怖いさ。嫌さ。でも……見てみろよ……!」
フジタカが腕を広げ、チコがやっと辺りを見回す。へし折られた木、霊液を吸って泡立つ地面とそびえる巨人像という光景が広がっていた。それを見ればチコだってあのアルパを想起する筈だ。だって、あの日いたのは私達なんだから。
「お前がもっと別の方法を取っていたら……」
「もしもの話なんて……」
「こうはならずに済む方法を、お前は知っててやったんじゃないのか!」
弱々しいチコの反論を覆い被せる様にフジタカが言った。力の抜けたチコはその場に尻餅をついて座ってしまう。
「く……っ」
この折れた木を復元する事はできない。だけどチコは未然に防ぐ術を幾らでも知っていたのに、ルビーだけ連れて来てしまった。
「認めろよ。お前だけの力じゃ……何もできなかったろ」
「……お前は」
チコが笑う。
「お前は……俺よりももっと優秀な召喚士のとこにいけよ!ザナみたいな特待生のところにな!」
「だから俺は、ここにいるんだろうがぁ!」
フジタカがチコの胸ぐらを掴んで持ち上げる。その姿にはルビーも声を洩らした。
「あ、あれ……!あんなの!」
「待って」
止めようとしたルビーに私が頼む。
「お願い。あの二人の……問題なんだ」
「でも……」
フジタカが来たのは並大抵の覚悟ではない。ずっと迷っても、彼は今チコの前に立っている。その事実はチコにだってもう変えられない。
「お前!忘れちまったのかよ!俺と一緒に戦ってくれただろ!フエンテを捕まえた時も……ベルトランを倒した時も!お前のスライムが俺を助けてくれたんだぞ!」
ゴーレムの核へ電流を流した時とあちこちを風の魔法で飛び回るベルトランをフジタカの剣が貫いた時。そう、彼の言う通りどちらも……。
「お前が俺の隣にいてくれたから勝てたんじゃねぇか!そんな事も無かった事にしちまうのかよ!」
それがフジタカにとっては大事だったんだ。辛くてもこのオリソンティ・エラで頑張って戦いを続けられる理由になり得ていた。
「俺、は……」
ガクガクと揺さぶられてもチコはフジタカの目を見ない。……見れないんだ、多分。フジタカがあまりにも真っ直ぐ自分へ怒りを向けているから。その気持ちが自分に伝えたい事があると知っているから。
「お前の力は俺と合わせなきゃ駄目だろう!それを無茶して、操る事もロクにできないゴーレム出して!しかも暴走させかけて!恥ずかしくねぇのか!」
「く……」
フジタカの手がやっとチコの服から離れる。どさりと着地したチコはなんとか自分を腕で支えてフジタカを見ていた。
「もっと、強くなる……!お前なんていなくても……!俺だけの力を、いつか手に入れる……!俺の力で!」
やっとフジタカがふ、と強張った顔から笑顔を見せた。
「それで?」
「だから……」
フジタカが差し出した手に、チコがそっと手を乗せる。
「今は……まだ、俺を……」
「恥ずかしがる部分じゃないぞ」
チコの顔が耳まで赤くなる。しかし今度こそ、彼はフジタカを見据えて言った。
「今はまだ俺を……助けてほしい……!」
フジタカがチコを引っ張り立ち上がらせた。
「楽しみじゃねぇかよ。だったらソイツを拝むまではお前を手伝ってやる。それでいいか」
チコが頷くとフジタカは首を横に振る。
「ちゃんと返事しろ!」
「うく……っ!あぁ!それでいい!」
眼前で怒鳴られチコが肩を跳ねさせる。しかし負けじと怒鳴り返してからやっと二人はぎこちなく笑った。
「……あれ、なに?」
「男同士のケンカ、かな」
「違うぞ」
離れて二人の様子を見ていたルビーが首を傾げる。だから私が思った事を言うと横にいたレブがトロノへ向かって歩き出す。
「男ではない。子どものケンカだ」
チコとフジタカの会話は途切れながらも続いていた。今までどこにいたとか、なんだかんだゴーレムを出せる様になってたんだな、とか。
二人の関係はチコが拒絶した瞬間に変わってしまった。それをフジタカからの働きかけでなんとか繋がりとして取り戻す。しかし戻ってきたのは以前と同じ力関係ではない。
「………」
トロノ支所に戻ったフジタカは引き続き、私の部屋にいた。こちらとしては構わないけど……。
「落ち着くまで、もう少し掛かるよね」
「はは……悪い」
レブは片目でフジタカの背中を見ていたがやがて静かに閉じてしまう。今回も無傷だったけど、アルゴスの時と同じ様に身動きが取れなくなってしまうと補助がいるよね、やっぱり……。それは私でも用意しないと。他のちょっとしたインヴィタドなのか魔法かは場合に合わせられる様にしたい。




