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激突する空の器。

 「く、うう……」

 タロスに攻撃したのだろう、巨人像の左手には大きな火の精、サラマンデルが握り締められていた。それを召喚したのは恐らく私の横で胸を押さえて苦しんでいるルビーだ。

 「ザナ!お前……」

 ルビーは魔力線の共有のせいか動けない。チコは召喚陣を破いてサラマンデルを消す様に言ったみたいだけどそれすらできそうになかった。初めての経験で慌てているらしい。

 「火蜥蜴一匹か……だが!」

 レブはタロスの体を駆けあがると腕を殴る。ギン、と鳴り響いたのは金属同士がぶつかる様な高音だった。火花を散らし像の指が大きくひしゃげて変形する。

 「動かせんのか」

 石柱同然の剣を握った右腕からの反撃を飛び上がって避け、左前腕に着地する。その間にもサラマンデルはタロスの左手の内から脱出できない。ルビーが命令を出せないからだ。レブも気付いてルビーを一度見るとタロスの顔を狙う。

 「ルビー!捕まってるのはあなたじゃないでしょ!」

 「あう……。これ、そうだ……」

 私が肩を揺するとなんとかルビーが顔を上げる。

 「きょ、距離を取って!掴まれたら焼き殺される!」

 「私を焼ける火では……ない!」

 剣を放り、直接掴みに掛かるタロスの手を躱し、レブはもう一本左手の指を殴って変形させる。その隙にサラマンデルが手から逃れた。タロスの足を這って着地するとすぐに召喚したルビーの元へと戻る。

 読んだ本ではタロスは霊液を自力で発熱させて炎を帯びるそうだ。ルビーも知っていたからレブに警告してくれる。しかしレブは攻撃を緩める気はなさそうだった。

 「チコ!」

 タロスの放った剣は木々を何本かへし折り、大きな音と共に倒れて地を揺らす。剣自体は私達に影響はなかった。しかし、折れた木の一本が離れて立っていたチコを潰す様に倒れる。大きな影が彼を呑み込む寸前、召喚陣の光が洩れた。

 「来い、やぁぁぁ!」

 倒れた木が押し戻される。現れたのはチコの倍程度の大きさのゴーレムだった。召喚士を庇う様にそれは腕を交差させて木を受け止めると力強く投げ飛ばす。

 「なんでお前がここにいるんだよ……!こんなの、俺一人でも!」

 チコはタロスに向かって叫びながら指を差し、ゴーレムをそのまま突撃させる。だが、人間と比べれば大きいゴーレムもタロスの腰までは届かない。

 「足場にはいいか」

 「あっ!おい!」

 レブはチコのゴーレムに着地すると肩を蹴り上げ再びタロスの顔を殴り付ける。頬が凹んでもどこを見ているか分からない巨人像は仰け反る様子も見せない。痛みを感じないから当然で、遂にレブが右手で掴まれる。

 「く……」

 「レブ!」

 そのままタロスは右腕を地面に叩き付ける。大きな土煙を上げてレブは地中にすっぽり拳ごと埋まってしまった。

 「がぁぁ!」

 チコが叫ぶ。しかもゴーレムまで巻き込んでしまったんだ。

 「サラ……」

 「大丈夫だ……」

 ルビーが再びサラマンデルをタロスに挑ませようとした。それをチコが足元をふらつかせながら止める。

 「まだ、俺は戦えるっ!来いやぁ!」

 再びチコが召喚陣を掲げて声を張る。呼応する様に紙に描かれた陣が光り出し、先程と同じ程度の大きさのゴーレムが現界した。

 新しいゴーレムを見て私は息を呑む。チコの召喚したゴーレムは今まで見た事が無い。慣れていない召喚士は、自分よりも体躯の大きなゴーレムは御し切れないから召喚してはいけないと言われていた筈だ。召喚する力量や技術があっても今のチコに扱えるのかが分からない。今のところは言う事を聞いているけど……。

 無言のタロス像が顔を上げて正面を見た。白目を剥いた像よりも核が見えているゴーレムの方がなんとなく視線を感じる。目が合った状態なのだろう、タロスは変形したままの左手を突き出し、あっという間にゴーレムを打ち砕いた。

 「くっ……まだ……。まだ!来いや!」

 動きが硬い。だからタロスからの一撃へ防御も迎撃もできずに無防備なまま突っ込んでしまう。既に汗だくになっていたチコだが更にゴーレムを呼び出す。恐らく、私達が到着する間にもっと多くのインヴィタドを呼び出していたと思う。息も絶え絶えになりながらゴーレムが出現したがチコは動かない。

 「チコ……?」

 「はぁ……っはぁ……はぁ……」

 私が声を掛けてもチコは何も言わない。ゴーレムも動こうとしなかった。

 召喚するのでもう手一杯。顔色も悪く、今にも倒れてしまいそうになりながらも胸を押さえて枯れた声を絞り出す。

 「い……けへぇ……」

 その声が届いたのかようやくゴーレムはのっそりと前へ歩く。とてもではないが勢いを乗せた攻撃をする事はできそうにない、ただの前進だった。

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