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胸を膨らませて深呼吸。

 「貸してみろ」

 レブが椅子から降りて私に手を伸ばす。フジタカも特に何も言わないので持たせてあげた。

 「………」

 ナイフ自体には特に変わったところは無いんだよね。剣だってセシリノさんが得意げに色々教えてくれたけど……。

 「私の爪程ではないが、良い鋼だ」

 片手で振るけど竜を斬るには不十分、みたいだね。そこまでの戦力を投入する必要は……まだあるか分からない。相手は底知れないのだから。

 「ねぇフジタカ。聞いてもいいかな……」

 「……どうした?」

 昨日から聞けずにいた事だけど、本当だったら真っ先に聞くべきだった。そう、相手は別にいるんだ。

 「フジタカは……フエンテ側に」

 「行かない」

 私の目を真っ直ぐに見てフジタカは断言した。

 「……ビアヘロだって言われてどうにかなりそうだけど、その選択だけは絶対にしない。アイツらは……ココとサロモンのおっさんを……」

 「……ごめん」

 欠片でも疑った自分が堪らなく嫌になった。視野を広げて物事を考える……良い事だけでもないみたい。

 「………いや」

 フジタカの手から力が抜け、レブも剣を壁に戻す。……今はフエンテの事なんて考えている場合では、ない。例え相手がこのあとすぐにやってきたとしても。

 「しばらく時間が必要だな」

 「整理するから。迷惑なら出てくし……」

 「そんな事は言っていない」

 レブは椅子に戻ると腕を組んだ。遠回しなんだから。

 「ゆっくり考えようよ。……チコとの事」

 「………!」

 フジタカの毛がふわっと膨らむ。彼がどんな選択を取っても私とレブは味方でいてみせる。今まで君が私達と戦ってくれた様に。だから私達の事ももう少し頼ってほしい。

 「……一人じゃ、きっと会えないって思った」

 「私もいるし、レブもいるよ」

 「大船に乗ったつもりでいろ」

 その例え、私達には逆効果だよ……。

 「時間は私達で作る。だから落ち着いていこう」

 「うん……」

 さて、少しの間この部屋を使ってもらうわけだけど……。

 「やっぱり敷布団も要るよね。床、固いもん」

 「俺は別に……」

 チコの部屋には私だって何度も入っている。そこには当然、毛布だけでなく敷布団も用意されていた。トーロの場合は待遇が違うから個室でベッドもあったし。

 「フジタカは私の部屋に来たお客人インヴィタドなんだから。もてなさないと」

 「あ………」

 それにどうせなら。

 「レブも。やっぱり座布団でも敷布団でも……」

 「必要無いと言った筈だ」

 今まで当たり前の様に寝かせていて悪いと思っても、そうやって顔を背けて聞き入れない。床の木が心地好い、というわけではないでしょうに。

 「どうせフジタカの分も貰うんだよ」

 「人の眠り方に難癖をつけるな」

 「気持ち良く寝たいとは思わないの?」

 別に重い荷物を何時間も背負って組み立てたりはしない。チコから取り返せないなら別室から持ってくるだけだし手間はほとんどなかった。

 「惰眠を貪る趣味は無いだけだ」

 そこまで頑なに拒否するならフジタカの分だけこっそり持ってくるけど……。

 「変なの。じゃあ、寛いでてよ。本とかは読んでていいから」

 フジタカ、ちゃんと文法とか覚えているかな?本、と言ったらフジタカの目線も机の方を向いた。……うん、一度別の事を考えるのも手かもね。

 レブとフジタカを残して部屋を出る。布団を用意したら次は……着替え、かな。トーロに頼めば獣人用の服は集まりそう。

 「よし」

 まずは一つ一つこなしていこう。全部積み上げて考えちゃうから頭が重くなってくるんだ。切り替えて私は廊下を進んでいく。


 こうして思うと、フジタカは召喚されてから随分目まぐるしく毎日過ごしてたんだなぁ。その中で自分が何を得たのか、改めて考えてみてほしい。きっと、俯くだけの日々じゃなかったから。

 しかし時は事象を伴って過ぎていく。彼が自分の持つ力に気付く間も与えぬままに。

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