闇夜へ通らぬ刃。
培った物を全部混ぜ合わせて鍛えた業物と言ったところかな。二人の表情を見ればどれだけの熱意を持って槌を振るってくれたか伝わってくる。
「だから、今度こそさっきみたいに霧散させんなよ?」
「……しばらくは」
とりあえず取り付けて振るわないんだろうな。ポルさんが言う様に機会を見付けないと。
「あの、代金とか……」
「支払えるアテは無いんだろ?ツケといてやるし、そんなもん気にすんな」
気前が良い、と言えばそれまでだけどポルさんは金銭感覚が無いかの様に淡々と返した。
「……すまない。必ず、何かしらで返してみせる」
「気長に待ってるさ。こっちはこっちで作ってて楽しかったしよ」
支払わないと納得できない、と言った様子のフジタカだったが自分で落とし所を設けて頭を下げる。セシリノさんはそんな彼を見ると髭を撫でて笑った。仕事を楽しめるって本当に幸せなんだろうな。
「さて、俺達は今日の仕事に取り掛かるか!」
セシリノさんが腕を振り回してポルさんに向き直る。ポルさんは布をぐるぐると手で巻き取ると端へと放った。
「あぁ。お前らも見学なら歓迎だ。またな」
「ありがとうございます!」
「その技術、不思議と見ていたくなる。気が向けばな」
……レブが自分から興味を示すって事はあまり知らない分野って事かな。着飾りも、防具も要らないしね。
ポルさんとセシリノさんの工房を後にして、私達は同じ経路を辿って裏口からトロノ支所の中へと戻る。部屋まで昨日会った誰かと顔を合わせる事はなかった。
「……神経使わせて」
「謝らなくていいんだってば」
開口一番に謝ろうとするんだもん。ポルさん達に会って少しは前向きになれたと思ったんだけどな。
だけど、これも時間の問題だな。フジタカは私やレブと仲が良いから出入りする分にはいつもの事だと思われる。ただし何事にも限度というものはある。今日明日くらいなら何とかなるけどいつまでもフジタカをこの部屋に置いておく理由……後で何か考えないといけないな。
「ほら、剣も置いて」
まだ遠慮しているので引っ張ると、フジタカは背負っていた剣を鞘ごと外して壁に立てる。するとすぐに自分の毛布の上に座ってしまった。レブは真っ直ぐに椅子に向かって既に腰掛けている。
「用意してもらった剣……ニエブライリスで活躍できる様にしておかないとね」
「うーん……」
フジタカは剣を見て唸る。名前は気に入らなかったみたいだけど今は自分の力の事でも考えているみたい。
「また何かの拍子に触れて消すんじゃないかって思ってさ……」
「そうしないように対策しとこう。……レブは何か思い付かない?」
思案していたのか、目を閉じていたレブがゆっくりとこちらへ顔を向けた。
「犬ころのナイフで消せない物で作れば良い。それではナイフが意味を成さんかもしれないがな」
フジタカですら消せない何か、か。何でも消すナイフと謳うくらいだ、大概は消せるだろうけど……。
「今まで消せなかった物ってないんだよね?」
「………」
レブの言葉に何か引っ掛かったのか、フジタカは口元に手を当てながら床をじっと見ていた。
「夜……かな」
ぽつりと呟いてからフジタカは苦笑して顔を上げる。
「なんちゃって……。はは、顔に似合わずロマンチックな事を言ったな。夜と人の闇は消せない……なんて」
茶化す様に笑っても乾いていてぎこちない。場を和ませよう、誤魔化そうなんて気遣いはいらないのにな。
でもフジタカの言う通り、彼とナイフは夜になるとその効力を発揮できない。それを活かして……。
「夜にしか生成されない鉄、なんて」
「聞いた事が無いな」
「だよね」
私の方が今度は変な事を考えてしまっていた。でも着眼するならそこかもしれない。
「フジタカ、少しだけニエブライリスとアルコイリスを貸して」
「ほら」
あっさりとフジタカは剣とナイフをこちらへ渡してくれる。剣を抜くと見立て通り、そんなに重くない。刀身は新品で微かな光もキラキラと反射してくれる。
「えーと……」
次にナイフも刃を出して……剣の窪みに嵌め込む。隙間はほとんど無いのに、吸い付く様に容易くぴったりと二つの刃は合わさった。
そして仕上げに剣の柄側に付いた留め具を合わせて……。できた!
「どう!これ!」
「あぁー……こうなるんだな」
日が暮れるのを待たずに持ち主を置いて組み上げてしまったが、フジタカも完全体になったニエブライリスの姿を見て声を洩らす。ナイフ一本分の重さが加わっただけだからほとんど負担は変わらない。




