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ドラゴ・インヴォカシオン-アラサーツンデレ竜人と新米召喚士-  作者: 琥河原一輝
異世界に来ちゃった狼男子高校生の苦衷
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ただいま。

                 第八章


 トロノに住む町の人にもフジタカの存在が知れ渡ったのだから、召喚士育成機関の中も当然、彼の噂で持ち切りだった。……ここでは主に下着姿の話で。

 噂も段々と風化し、次の話題がダリオおじさんの姪が結婚間近とか囁かれて注目を浴び始めた頃、私達は久しく会っていなかった二人と再会した。

 「おかえりなさい、カルディナさん!トーロ!」

 大荷物を抱えてトロノ支所の玄関に現れたのは黒髪に眼鏡が映える女性。私が召喚士になった瞬間に立ち会ってくれた召喚士、カルディナさん。その横に居る大きな体躯の牛獣人は彼女のインヴィタド、トーロだ。

 「ひと月半ぶりか、ザナ」

 年齢は上……だと思うけど、トーロはつい呼び捨てにしてしまう。気にした様子はなくトーロも私を覚えていてくれた。

 「うん!カルディナさんは……髪、伸びましたね?」

 「編むか切るか、迷ってるの。それはザナさんも一緒じゃない?」

 カルディナさんは長く伸びた髪を纏めて上で留めていた。編んだら綺麗だろうな、あの髪は。

 「私は……もうしばらく伸ばしてみます」

 「そう?」

 自分の髪を触って確かめる。この町に来てから、少し身だしなみは気になり始めた。ティラドルさんみたいな服を着る機会なんて今後もあまり予定はないけど。

 「ところで今回の任務、どうでしたか?」

 髪の手入れの話よりも聞きたい事がある。今回、カルディナさんもトーロも護衛でずっと遠征していた。その結果がどうだったかだ。

 「まずまずかな。召喚士として合格したのは二人」

 「二人……」

 トロノからずっと南西にある小さな村に行ったと聞いたけど、それでも新たな召喚士は二人だけ。狭い門とは思っていたけど、セルヴァで五人合格したのは多い方だったのかな。

 「あと、今回は久し振りに私の描いた召喚陣を使いました」

 「……どうでした?」

 カルディナさんは私とチコのせいでしばらく召喚士選定試験監督の任から外された。そんな張本人が聞いていいのかな。

 「大丈夫、二人とも召喚したのは鉱石だった。不合格者達も、特に暴走させてないし問題なかったと証明された」

 「これで今後も、普段は試験の立ち合いが中心になるだろう」

 「おめでとうございます!」

 祝福の言葉を贈るけど、私達はカルディナさんの描いてくれた召喚陣を捨ててしまいました。……事情は分かっているだろうから、納得してくれると思うんだけど。

 「ありがとう、ザナさん。これも貴方達の頑張りのおかげ」

 「だってよ、レブ」

 私の隣にいた筈のレブがいない。少し見回すと、受付用の椅子に立ち上がり、レブは窓の外を眺めている様だった。

 「……レブ?」

 「………」

 私が声を掛けても無視。……違う、それだけ集中して何かを見ているんだ。あぁ、とカルディナさんは察して声を洩らす。

 「見ているのは、契約者ね?」

 「あぁ」

 契約者、と単語を出すとレブは短く返事をした。振り向いて、椅子から降りるとようやく話に加わる。

 「今は新しい召喚士を所長に紹介しているところでしょう?」

 「そうだ」

 心なしか、レブの声が低い。

 「そろそろ私も二人を寮に案内したいんだけど」

 「話であればひと段落している」

 「本当に?……って、聞いてたの?」

 カルディナさんは半信半疑だったが私は信じて外に出た。レブも続いて出てくる。

 「やぁ、君達。……あ、もしかして待ってた?」

 ブラス所長が煙草を消してこちらを見る。それだけでも少し煙臭かった。

 「報告書はほとんど完成しています。今は……」

 「あぁ、そうだよね。二人も長旅で疲れてるだろうし、うん。部屋を教えてあげてよ」

 ブラス所長の隣で固まっていた細身の男性二人はカルディナさんが間に入ってくれて助かったみたい。少し肩の張りも抜けた。

 「分かりました。では二人はこちらへ。……ザナさん、また」

 「はい!」

 私の横を通り抜けた二人。少し私よりは年上の印象だった。浅黒い肌は外仕事を中心に、よく陽射しを浴びていた証だと思う。

 「少し話さないか、契約者」

 「………」

 言われ、レブを見下ろす長身の男。炎を思わせる程の強烈な紅に染まった羽毛に全身を覆われた鳥人、契約者ニクス様。会うのはタムズに会う前だからもう、かなり前に思えてしまう。

 「もしかして、邪魔かな?」

 「えっと……」

 ブラス所長が私を見て笑う。私は二人の話を聞きたいけど……。

 「……では、ここまでにしましょう。ニクス様、また」

 「分かった」

 私が言う前にブラス所長は引き下がった。ニクス様も承諾し、所長はトロノ支所の中へと入ってしまう。

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